交わらない心

吉岡千晃という男

吉岡千晃という男①

文化祭準備が着々と進み、居残りして活動する生徒が多くなってきた頃。

自分のクラスも文化祭に向けて自主的ではあるが居残り作業をするようになった。

和風喫茶をやることに決まったらしく放課後、教室内で仲良いもの如何して固まって机を寄せてスペースを作りながら真面目にダンボールに塗装をしている女子達だったり·····居るだけで遊んでいる奴もいたり各々作業をしていた。

優作も自席で赤い色画用紙に鉛筆で書かれた紅葉をひたすら線に沿って鋏で切っていた。
正直作業はだるいし普段だったらやらずに帰っているところだが隣には吉岡がいる。

最初は吉岡が残ると聞いてもクラスのために居残るなんて柄じゃなくて、吉岡が終わるまで玄関先で唯、待っているだけだった。
それを数日続けてたら「待ってるくらいなら手伝って」と言われ、強制連行されては今に至る。

優作も作業は乗り気ではなくても吉岡の近くにいれるならとまんざらでもなかった。

ふと吉岡を見ると、ミシンを机に置いては
真剣に布地と格闘しているようだった。

「吉岡。何してんの」

「ん？のれん、作ってる」

ミシンから一切目を離さず、返答をしてくる。

「お前裁縫できたっけ」

「もちろん。裁縫だけじゃなくて料理もできるけど？」

「ふーん」

吉岡は一区切りがついたのか、ようやく前屈み気味の体制から上体を起こす。

「うち、共働きで親が帰り遅いから妹に晩飯作ってるんだよ。縫うだけなら普通にできるし。國枝くにえだ達が衣装作ったりして大変そうだったから」

「お前、意外と器用なんだな」
「ただのオタクだと思ってた？」
「まあ·····」

「失敬なっ·····！この千晃くんにかかればこんなの朝飯前よ。優、惚れ直した？」

吉岡は冗談めかしたように笑顔で笑い掛けてくる。優作はそんな彼に動揺しながらも
曖昧に返事をした。

「そんなわけ·····」

·····ある。
吉岡が器用だなんて初めて知ったし。妹がいることも初耳だ。二年半も一緒にいて吉岡のこと全く知らなかったなんて·····本当に自分は馬鹿だったと痛感した。