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恋しい
恋しい⑥
しおりを挟む「そんなことさせるかよ」
吉岡が脅したところで黙って引き下がるわけもなく、スマホを奪うことを諦めた水澤は吉岡の胸倉を掴んでは
そのまま机上へと倒れ込むと、もみ合いになる。
吉岡の持っていたスマホは床へ落ちると、水澤の足に弾かれ、優作の元まで滑り込んできた。
優作は咄嗟にそれを拾い、大事に抱え込む。すると、それに気づいた水澤は吉岡に構うのを止めて
俺の元まで駆け寄ってきては、スマホを持った右手首を掴んできた。
「優作、それから手を離してくれないかな」
血が止まりそうなほどに強い力で握られ、うっかり落としてしまいそうになるが、これはどうしても渡せない。
渡してしまえば水澤の悪事の証拠がなくなる……。
「優に触るな」
痛みに顔を歪ませながらも、意地でも渡すまいと耐え忍んでいると水澤の体が仰け反って
掴まれた手が離れて行った。吉岡が水澤から引き剥がし、頬にグーパンチをお見舞いしていた。
その衝撃で水澤の左頬は赤くなり、顔を右下に向けると吉岡を睨む。
しかし、自ら過激に人に刃物を押し付けてくるくせに打たれ弱いのか、吉岡が拳を振るったことで
身体が震え、恐怖で慄いているようだった。
優作自身も吉岡の拳をお腹で受け止めたことがあるが、それなりのパンチ力の持ち主であることは知っている。
温厚な人物ほど怒らせると怖いと良く言ったものだ…。
「教師に向かってこんなことしていいと思ってんのか?」
「これは正当防衛です。いいから、さっさと出てけ。優に金輪際近づくなっ。
近づいたら何が何でもあんたを教師じゃいられなくしてやる」
声を震えさせながら強がる水澤の声を上回る怒声で吉岡が牽制してくる。
水澤のネクタイを引っ掴み、輩同然のように脅している彼はまるで別人のようだった。
吉岡の威圧に負けた水澤はネクタイを吉岡の手から引き抜くと、舌打ちをして吉岡を押しのけるように教室を出ていった。
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