交わらない心

優作と楓

優作と楓①

堂々と店の扉を開ける優作の後ろで辺りを不審に見渡しながら中へと入る。
飲み屋街だと安心していれば目と鼻の先にはラブホ。少し振り返れば、キャバクラにホストクラブ。

千晃にとっては未知の領域すぎて、今から入る店もいかがわしい店なのではないかと心中穏やかでは居られなかった。優作のことだから平気でそんなお店に入り浸って居そうではあるけども……。

そもそも話を切り出そうとして連れてこられたのが此処って何を考えているのだろう·····。


警察に見つかったら確実に補導される状況で入るのを躊躇っていたが、かと言って店前で取り残されるのも落ち着かなく、慌てて扉の中へとはいると、カウンターに立っている女性ひとと目が合う。

「いらっしゃい。あら、優ちゃん。それと·····」

長い髪を白い簪で纏め、藍色の着物をきっちりと着こなす如何にもスナックのママ風な女性ひとだけどちゃんと気品もあって好感が持てる。

周りは酔っ払いのサラリーマンが多く、未成年が入っては行けないところではあるが、ハードな所そうではなさそうで、少しだけ安堵した。

そんな探り探りな千晃の傍ら、優作は、ずかずがと我が家かのようにカウンターの女ひとの前に座る。

千晃も身を竦めながら後に続いて隣へと腰掛けようした時·····。

その女に手を強く引っ張られ、よろけていると両頬を両掌で挟まれ、まじまじと顔を見つめられた。

「もしかして千晃くん！？」
「ふぇ？」

切れ長の瞳の美人な人に間近で見つめられて、一気に顔の熱が上がる。千晃の偏見に過ぎないがこういう所の人は強引な人が多いイメージがある。「んもぅーかわいいー」と頬をフニフニされて、食ってかかるようにガッツかれたので少しだけ恐怖を覚えた。