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悟る想いと俺の初恋
悟る想いと俺の初恋③
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二段飛ばしで駆け上ったせいで、少し上がった息のまま屋上の扉を開けると、
奥の青いベンチに兼と女が並んで座っていた。
「優作くーん、こっちこっち」
俺のことを見るなり大声で手招きする女。
わざわざ大声で呼ばなくても見ればわかるし、お前はお呼びじゃない。
耳障りな甲高い声を聞くだけでも虫唾が走るが、今は我慢するのが優先だった。
その隣の子犬のような澄んだ瞳の兼がいるから…。
兼はスッと立ち上がると俺に向かって深くお辞儀をしてきた。
その律義さが優作の心を燻り、胸がキュッと締め付けられる。自分にはない、兼の真面目さに惹かれ、
たまらなくなりながらも、優作も軽くお辞儀をした。
二人が座るベンチの傍らのコンクリートに胡坐をかいて腰を下ろすと、椿が両手で弁当箱を差し出してきた。
「はい、優作くんのお弁当!あと…柴犬くんのもね」
俺が本命だと分かるような露骨に大きいお弁当箱を渡されて眉間に皺が寄る。
ついでのような兼のお弁当は俺のより一回り小さくて、あくまで自分に告白してきた人間を前でこんな差を見せつける女の神経を疑う。しかし、そんな彼は、椿の弁当を嬉しそうに受け取ると「わー椿先輩。ありがとうございます」と一つ一つのおかずを噛みしめる様に味わって食べていた。
「俺はいらない、自分の買ってきたし」
優作はというと、端から椿の作ったお弁当など受け取る気はない。
そもそもおかずの殆どが電子レンジで温めて、弁当箱に詰めればいいだけのものだと分かる。
お情け程度に蓋を開けたものの、直ぐに閉じると自分の鞄からコンビニで買った総菜パンを取り出した。
「ええーなんで。折角、理友菜が作ってきたんだよ?」
猫撫で声で甘えてくる椿。優作は兼に目線を移し、視線がかち合うと合図のように頷いた。
「つ、椿先輩っ。桜田先輩の分も僕が食べます」
優作の合図が通じたのか率先してお弁当を受け取る兼。
己の意思でもあるが、椿の前では自分の株を極力落として兼を優位に立たせるのが目的でもあった。
自分が叶わないことが明確なのであれば、せめて兼の恋が叶うようにしてやりたい·····。
「ほんと?頼もしいじゃん。柴犬くん」
男気を見せた兼を見直した椿は、彼の頭を撫でる。
それを頬を染めながら嬉しそうな兼を良かったと思うと同時に羨望のような感情を抱いていた。
許されるなら俺も触りたい。
兼の髪の毛は柔らかそうで、本当に柴犬のようなんだろうか。
許されないと分かっていればいる程に、欲が湧いてくる。
苦しい…。
つと屋上の扉の小窓が揺れた気がして、目線を向けると一瞬だけ見慣れた顔が覗いて
いるのが見えた。ツンツンの短髪に校則ギリギリであろう茶色い髪色は吉岡だ。
さっき挨拶をして言葉を交わしたばかりの奴が何故ここにいるのか。
優作は徐に立ち上がると椿の問いかけを無視して、屋上の扉の方へと向かう。
扉を開けて踊り場から階段を見下ろすと、吉岡が慌てた様子で駆け降りている姿があった。
ここ数日の吉岡の態度で何となく気づき始めてる。俺を意識したような行動…。
そういえば吉岡とも兼同様、初めて言葉を交わしたのは椿の告白現場だったっけ…。
奥の青いベンチに兼と女が並んで座っていた。
「優作くーん、こっちこっち」
俺のことを見るなり大声で手招きする女。
わざわざ大声で呼ばなくても見ればわかるし、お前はお呼びじゃない。
耳障りな甲高い声を聞くだけでも虫唾が走るが、今は我慢するのが優先だった。
その隣の子犬のような澄んだ瞳の兼がいるから…。
兼はスッと立ち上がると俺に向かって深くお辞儀をしてきた。
その律義さが優作の心を燻り、胸がキュッと締め付けられる。自分にはない、兼の真面目さに惹かれ、
たまらなくなりながらも、優作も軽くお辞儀をした。
二人が座るベンチの傍らのコンクリートに胡坐をかいて腰を下ろすと、椿が両手で弁当箱を差し出してきた。
「はい、優作くんのお弁当!あと…柴犬くんのもね」
俺が本命だと分かるような露骨に大きいお弁当箱を渡されて眉間に皺が寄る。
ついでのような兼のお弁当は俺のより一回り小さくて、あくまで自分に告白してきた人間を前でこんな差を見せつける女の神経を疑う。しかし、そんな彼は、椿の弁当を嬉しそうに受け取ると「わー椿先輩。ありがとうございます」と一つ一つのおかずを噛みしめる様に味わって食べていた。
「俺はいらない、自分の買ってきたし」
優作はというと、端から椿の作ったお弁当など受け取る気はない。
そもそもおかずの殆どが電子レンジで温めて、弁当箱に詰めればいいだけのものだと分かる。
お情け程度に蓋を開けたものの、直ぐに閉じると自分の鞄からコンビニで買った総菜パンを取り出した。
「ええーなんで。折角、理友菜が作ってきたんだよ?」
猫撫で声で甘えてくる椿。優作は兼に目線を移し、視線がかち合うと合図のように頷いた。
「つ、椿先輩っ。桜田先輩の分も僕が食べます」
優作の合図が通じたのか率先してお弁当を受け取る兼。
己の意思でもあるが、椿の前では自分の株を極力落として兼を優位に立たせるのが目的でもあった。
自分が叶わないことが明確なのであれば、せめて兼の恋が叶うようにしてやりたい·····。
「ほんと?頼もしいじゃん。柴犬くん」
男気を見せた兼を見直した椿は、彼の頭を撫でる。
それを頬を染めながら嬉しそうな兼を良かったと思うと同時に羨望のような感情を抱いていた。
許されるなら俺も触りたい。
兼の髪の毛は柔らかそうで、本当に柴犬のようなんだろうか。
許されないと分かっていればいる程に、欲が湧いてくる。
苦しい…。
つと屋上の扉の小窓が揺れた気がして、目線を向けると一瞬だけ見慣れた顔が覗いて
いるのが見えた。ツンツンの短髪に校則ギリギリであろう茶色い髪色は吉岡だ。
さっき挨拶をして言葉を交わしたばかりの奴が何故ここにいるのか。
優作は徐に立ち上がると椿の問いかけを無視して、屋上の扉の方へと向かう。
扉を開けて踊り場から階段を見下ろすと、吉岡が慌てた様子で駆け降りている姿があった。
ここ数日の吉岡の態度で何となく気づき始めてる。俺を意識したような行動…。
そういえば吉岡とも兼同様、初めて言葉を交わしたのは椿の告白現場だったっけ…。
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