交わらない心

なめめ

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知り合い以上友達未満

知り合い以上友達未満①

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「よっしーさっきから廊下気にしてるけどなんかあんの?」

出入口の扉全開で隣のクラスからの騒がしい声が廊下を通じて響き渡る昼休み。
教室廊下側の一列目の最前席。タブレットでアイドルの動画見ながら弁当をつついている辻本英治つじもとひではるが隣の座席に腰掛けて熱心に廊下を眺めている俺に問いかけてきた。

「まあー待ち人?」
「桜田か?」

辻本に続いて、彼の真後ろの自席で飯田元喜いいだもときも箸を顔の真横まで挙げては動画に釘付けになりながらも当然のことのように聞いてくる。

「もちろん」
「今日は桜田来んの?」
「分からない」

黒髪短髪真ん中分けの眼鏡が飯田。陽気に俺の名前をよっしーと呼ぶ、もさもさ天パが辻本。
この2人とはアイドル好きで意気投合した友達。優作は学校に来る日や時間が疎らで、一日丸まる来ない日もあれば午後から何食わぬ顔で登校してきたりする。そんなとき俺が一緒にいるのは、この二人であった。

「というか、来るかも分かんないのに毎日待ってるけど連絡先分かんないの?」

おかずの肉団子を頬張り、水筒を一口飲んだ飯田が言う。

「うん」
「まじかよ。友達なのに?!」

目を丸くして大声で驚いた辻本に向かって、一瞬だけクラス中の注目が集まる。
その辻本の頭を飯田が軽く叩くと「うるさい」と一喝いれていた。

「優は詮索されるの嫌がるから、俺は必要以上に訊くことはしないの」

彼が始業から来ないのは唯の寝坊なのか、気分が乗らないだけなのか、はたまた別のどうしても外せない私用があるのかは、ここ二年程の付き合いである千晃も知らない。学校以外での彼のことが気になりはするけど、連絡先ひとつにしても、深く私情に踏み込まれるのは嫌らしく、冷たくあしらわれるのがオチだった。

本音は連絡先だけでも知りたいと思うが、半分は自分の興味本意で優作に近づいてるだけだし、そこに関しては執着するほどのことでもない。

「ほんとよっしーと桜田くんって不思議だよなー…わー、このモモたんのソロ最高なんだよなー」

普通の会話もしながら弁当を食べ、更に推しの動画を観賞してと忙しい辻本はついに動画に集中し始めてしまった。
辻本が観ている動画も気になるがそれよりも廊下の様子が気になる千晃は、意識を廊下へ向けながらも共に動画を眺めていた。

「あ、噂をしてたら桜田じゃん」

俺は気にしていたことにより、飯田も気にかけてくれていたのか、人影に気づくと教室後方の入口の方をみて言葉を発した。声に反応した千晃は、飯田の向いた方へと視線を向けると、丁度、噂の人物が教室に入ってきては、真っ先に最後列の廊下側から三つ目の席に座った瞬間だった。

待ってる間の期待から、嬉しさで自然と頬が緩む。 
別に深い意味は無いが、あまり会えない友達なだけにいつもより嬉しさが倍増する。
決して辻本や飯田をぞんざいに扱っているわけではないが、道端で狸や狐に遭遇したときの心境に近いかもしれない。それくらい優作が学校へ来ることは珍しいことだった。

千晃は動画に夢中な二人に別れを告げると真っ先に優作の元へと駆け寄って行った。


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