交わらない心

恋する瞬間

恋する瞬間③

優作にちょっかいを出して楽しそうにしている彼女。彼を見つめているときの彼女は分かりやすいくらい恋する乙女全開だった。


優作を前にすると女優ライトが当てられたかのように瞳をキラキラと輝かせて、積極的に話しかけてくる。察しのいい優作は前々から気づいていたと言う。勿論、最初は複雑な心境を抱いていたが、共に過ごしていくうちに椿への想いは薄れていったし、振られた時点で吹っ切れていた。

かと言って優作は椿と付き合うわけではなく、寧ろ鬱陶しく思っている。椿の一方的な片思いらしい。
男なら喜んで付き合うはずの誰もが羨む状況にも関わらず、全く目もくれないのは彼には根本的な理由があった。

「あんな女興味ない。女あいつと付き合うくらいなら·····」

優作は笑みを浮かべると身を乗り出すのを止め、屈んでいる千晃の隣にこちらを向いて屈んでくると左頬に優作の手が触れてくる。

千晃は思わずの出来事に優作を見遣ると、その真剣な表情と触れた手の感触に心拍数があがりだした。

「お前の方がいい…」

優作は優しく千晃に微笑んでくるとゆっくりと近づいては、耳元まで口元を近づいてくる。その囁かれた色っぽい声に千晃の耳朶が熱くなったと思えば、彼のその微笑みが悪戯な笑みに変わった。

「なーんて。嘘」


分かっていた。いつもの優作の冗談だと分かっていたが、顔ひとつ変えずにさらっと本当のような冗談を言ってくる優作に戸惑いながらも、ドキドキしてしまう。

だからと言って彼に恋愛感情を抱いているわけじゃない。

「冗談はやめてよ。優が真顔で言うと本気みたいで怖いから」

千晃は動揺してしまったことを誤魔化そうと優作の肩を軽く押しては距離をとると、優作は尻もちをつき、腹部をかかえては急に大笑いを始めた。

「俺も、お前はないわ。でも女はもっと論外」

彼が言うように優作はゲイだ。恋愛感情を抱くのは決まって男。と言っても、男なら誰でもいいというわけではなく好みがあるらしい·····。
だから千晃と優作の関係はそれ以上のものはなく、唯の友人同士なだけ。