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恋する瞬間
恋する瞬間①
しおりを挟む『椿先輩が好きです』
あれから2年が過ぎた高校三年生の初夏。
一日最後のHRが終わり、終業のチャイムと同時に教室を出ては美術の教科担任に本日中に提出するクラス全員分の課題を渡しに、美術室にある第二校舎まで足を運んだ。
その声が聞こえてきたのは、第一校舎へと繋がる廊下のある二階まで降りようとした時のことだった。
下の階の踊り場から明らかに告白とも聞き取れるただならぬ空気に、千晃は咄嗟に手すりの壁の影に屈んで隠れながら顔を半分だけ出して踊り場の階下の様子を覗き見る。
目の先には男女が向かい合っていて、男の方は心無しか赤面させながら女をしっかりと両眼で見据えて立っていた。女の方の顔をよく見るとあの椿理友菜だと分かり、二年前のことを蒸し返されたようで苦虫を噛み潰したようになる。
まさに、あの日、あの時と同じ告白現場だ。
「初々しいなー。昔のお前見てるみたい」
そんな複雑な心境の千晃とは裏腹に、教室から行動を共にしていた桜田優作は、千晃のすぐ隣で上階を繋ぐ階段から身を乗り出して楽しげに覗いていた。
「しっ、優。バレるだろ」
「案外バレないよ。お前ん時もこうやって見てたし」
偶然にも一緒に見たくのない奴と一緒だっただけに余計に罰が悪い。あの時の優作にも自分は今告白をしている男のような感じに見えていたのだろうか。だとしたら、相当恥ずかしい。
「やめてよ。もう終わったことなんだから」
「あの時の吉岡。すげぇ可哀想だったもんなー」
堪えているのかクックックと優作が笑っている声が頭上から聞こえてくる。幾ら距離があるとはいえ、人通りの少ない静かな第二校舎では小声ですらも耳に通りやすい。優作の笑い声でバレてもおかしくない状況に内心ヒヤヒヤしながらも告白現場の二人に集中した。
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