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Broken Flower2
Broken Flower2 ③
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江藤にいじめを受けていた日々は永遠に水の中を泳いでいるような出口の見えない息苦しさを感じていたが、その江藤とも高校も卒業間近になってきた頃、彼の妹が亡くなったのを機に心境の変化があったのか、和解とまでいかなくてもそれなりの関係を築くことができているし、時折店にも顔を出してきている。
葵が最も思い出したくないのは江藤のことじゃない。無知だった自分が恋現を抜かして自惚れてしまっていたあの時のこと。
名前を出すのも悍ましい人。
そんな人のことをわざわざ何年経った今でも思い出してしまう自分に嫌気がさしながらも二人には「僕は友達作りたくて花屋になった訳じゃないんで…」と突き放しては店の奥へと入ると気を逸らすように展示されている花のバケツを抱いて水の組み換えを始めた。
今日の実習は落ち着かず失敗の連続だった。
デザイン課題の花を予定の長さよりも短く切ってしまい、彩色も考えず組んだせいか不格好な見映えになってしまう。講師の先生はそれなりの功績を残している葵に免じてか、そういう時もあるわよねと慰めてくれたが、葵としてはショックであった。
葵の集中力が切れてしまったのは数日前に予想外の出来事が起こってしまったからだった。
新しいアルバイトが入ると告げられた週の金曜日に例の子の初出勤日となった。少し実習が押してしまい、遅れて店へと帰ると店の前でエプロンを身につけた二人の男性が店の前の花の前で話し込んでいた。一人は慎文さんでもう一人は新しい子だろう。
後ろ姿からは断定出来ないが自分とは波長が合わない、どっちかと言うと慎文さん寄りの青年のような気がする。あまり会話をしたくないタイプ。
うちの店はまず花に慣れ親しんで貰うために花の名前と特徴を覚えて貰うようにしている。熱心に慎文さんが教えている横でメモしながら真面目に書き込んでいる所から冷やかしとか軽い気持ちで入って来たわけではない気はする。
「意外と絵上手いんだね、亨くん」
「あ、いえ、でもやるからにはちゃんと覚えたくて…」
指導している間を割って入るのも違う気がして、自分も店に立つ準備をしてから改めて挨拶しようと彼らの横を通りすぎようとしたとき「あ、葵くんおかえり」と慎文さんに呼び止められて振り返った。
ただいまと言おうと口を開きかけて、目に止まった人物に愕然とする。僕と目が合うなり、ぎこちなく逸らされ顔を俯けられる。
少し毛先をうねらせ遊ばせた髪型、かつて凝視するのも困難だった程見惚れていた整った顔立ち。
皮肉にも慎文さんと並べば負けても劣らないその人物は葵が最も警戒し嫌悪感を抱いてる人物、塩谷亨だった。
葵が最も思い出したくないのは江藤のことじゃない。無知だった自分が恋現を抜かして自惚れてしまっていたあの時のこと。
名前を出すのも悍ましい人。
そんな人のことをわざわざ何年経った今でも思い出してしまう自分に嫌気がさしながらも二人には「僕は友達作りたくて花屋になった訳じゃないんで…」と突き放しては店の奥へと入ると気を逸らすように展示されている花のバケツを抱いて水の組み換えを始めた。
今日の実習は落ち着かず失敗の連続だった。
デザイン課題の花を予定の長さよりも短く切ってしまい、彩色も考えず組んだせいか不格好な見映えになってしまう。講師の先生はそれなりの功績を残している葵に免じてか、そういう時もあるわよねと慰めてくれたが、葵としてはショックであった。
葵の集中力が切れてしまったのは数日前に予想外の出来事が起こってしまったからだった。
新しいアルバイトが入ると告げられた週の金曜日に例の子の初出勤日となった。少し実習が押してしまい、遅れて店へと帰ると店の前でエプロンを身につけた二人の男性が店の前の花の前で話し込んでいた。一人は慎文さんでもう一人は新しい子だろう。
後ろ姿からは断定出来ないが自分とは波長が合わない、どっちかと言うと慎文さん寄りの青年のような気がする。あまり会話をしたくないタイプ。
うちの店はまず花に慣れ親しんで貰うために花の名前と特徴を覚えて貰うようにしている。熱心に慎文さんが教えている横でメモしながら真面目に書き込んでいる所から冷やかしとか軽い気持ちで入って来たわけではない気はする。
「意外と絵上手いんだね、亨くん」
「あ、いえ、でもやるからにはちゃんと覚えたくて…」
指導している間を割って入るのも違う気がして、自分も店に立つ準備をしてから改めて挨拶しようと彼らの横を通りすぎようとしたとき「あ、葵くんおかえり」と慎文さんに呼び止められて振り返った。
ただいまと言おうと口を開きかけて、目に止まった人物に愕然とする。僕と目が合うなり、ぎこちなく逸らされ顔を俯けられる。
少し毛先をうねらせ遊ばせた髪型、かつて凝視するのも困難だった程見惚れていた整った顔立ち。
皮肉にも慎文さんと並べば負けても劣らないその人物は葵が最も警戒し嫌悪感を抱いてる人物、塩谷亨だった。
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