Broken Flower

なめめ

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フラワー大藪

フラワー大藪 13-6

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ダメだと云い聞かせていても、向いてしまう足。大学が終わって真っ直ぐ駅とは真逆の方面を歩いては目的の場所まで目指す。逸る気持ちに連動して心做しか歩幅も急ぎぎみ。

目的地へと到着すると怪しいのは百も承知ではあったが帽子を深く被り、店内の様子を店外の花の影に隠れて窓からそっと覗いた。店の奥の作業台で花束を組んでいる彼。

目が合いそうになるとすかさず逸らして花に隠れてはやり過ごすのを繰り返す。しばらくして彼が車を出して配達に行ったのを見届けると亨は大人しくその場から離れるのが、アルバイトがない週2日の日課になっていた。

未練なんか残して、近づけない彼を遠くから眺めて想うなんてストーカー紛いなことはもう辞めた筈なのに、そこに葵がいるのが分かってしまった以上、じっとしていることが出来なかった。

「中入らないの?」

今日もいつものように彼の乗った車を眺めてその場を去ろうとした時、背後から声を掛けられて体がビクリ跳ねた。

振り返ると、あの何時ぞやかの星野の彼女への花束を一緒に考えてくれていた店員が立っている。にこやかに話し掛けてきたが、単純に話しかけてきたというよりは何かを危惧して話しかけてきたような雰囲気を纏ってる。

それも無理がない·····実際に亨は帽子被って店の中眺めるだけで、何も買わずに帰るなんて不審人物でしかないのだから。

「す、すみません。なかなか一人で入る勇気がなくて·····もう来るつもりはないので失礼しまし·····た」

これが多分警笛なのだろう。もう葵に近づくなと。
このまま通い詰めていたら、それでこそ歯止めが利かなくなり家までストーキングをしてしまいそうになる。

もう辞めよう、葵とは終わったことだ。
何の脈略もないのに執着するなんて、往生際が悪い。
葵もあんなに明るく前を向いているんだのだから、自分も過去に縋るのではなく前を向かなきゃならない。

亨は店員に深々と頭を下げると男の横を通り過ぎ、その場から足早に立ち去ろうとしたとき、背後から「君、花好き?」と問われて踵を返す。

「え·····」

「何が好き?パンジー?ダリア?それとも観葉植物?」

好きか嫌いかの返答をしないうちに、質問を畳みかけられる。
花の名前なんて葵の横で黙って彼が水遣りをしていただけで、詳しく知っているわけではない。だけど、葵の好きな花の名前だけは鮮明に覚えていた。
保健室で頬をほのかに染めながらも話してくれた時のことを。

「シクラメン·····」

結局あの時は、付き合っていた教員も近くにいただけに、彼と彼女の板挟みで彼が見せてくれた花の写真は印象に残っていなかった。
葵の好きだった花を言ったから何だというだ。
諦めようと何度心で唱えたところで、脳裏に映すのは久しぶりに見た葵の姿ばかりだった。

「そっか·····ちょっと待ってて?」

店員は何か思い立ったように、亨をその場に待たせると店内へと入っていった。

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