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御礼がしたいです
御礼がしたいです 5-8
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会話が途切れた所で「お待たせ致しましたー」と店員の声と共に注文していた料理が運ばれてきた。目の前に現れたハンバーグステーキに更に空腹をかき立てられながら、ふと向かいに目線を移すと、深々と店員に御礼をしては、両手を合わせて「いただきます」と小さく呟いて匙をとっていた。
その光景を目にした亨は、いつもなら流れのように言うだけの「いただきます」の挨拶だが葵の姿を見ているとちゃんとしなければいけないような気がして、自分も手を合わせてちゃんと挨拶をしてからナイフとフォークをつける。
普段から口数は多くないように思えるが、食事中も「美味しいです」と感想をもらった以降葵は必要以上に喋ってくることがなかった。星野や西田だと料理が冷めきってもマシンガントークを続けているのでこれはこれで新鮮で落ち着いて飯を食べることができた。
相手の緊張は伝わってくるものの、植物や花の話題を振ってやれば笑顔で応えてくれるし、亨にとっては居心地の良い時間だった。
そんな葵との時間はあっという間に感じて食事を終え、店の外に出ると既に日が暮れ初めていた。亨はお腹も満たされ、茜色の空に向かって思いっきり背伸びてみる。
「葵、今日は奢ってくれてありがとう」
亨はのびをした後、一歩下がった所にいる葵に向かって振り向く。何気なく御礼の言葉を言っただけなのに、葵は目を見開き、突然固まったように「葵·····」と呟いた。
流石にいきなり名前の呼び捨ては癇に障ってしまったのだろうか……。
「呼び捨てダメだった?ごめん。ダメだったというか先輩だからちゃんと先輩付けるべきだよな……」
過去に年上の人と交際していたことが多かったせいか、先輩を呼び捨てにすることに抵抗がなく馴れ馴れしく接してしまっていたが、こういう上下関係の礼儀が気になる人も当然要るのは心得ているだけに、無意識とはいえ反省した。
その光景を目にした亨は、いつもなら流れのように言うだけの「いただきます」の挨拶だが葵の姿を見ているとちゃんとしなければいけないような気がして、自分も手を合わせてちゃんと挨拶をしてからナイフとフォークをつける。
普段から口数は多くないように思えるが、食事中も「美味しいです」と感想をもらった以降葵は必要以上に喋ってくることがなかった。星野や西田だと料理が冷めきってもマシンガントークを続けているのでこれはこれで新鮮で落ち着いて飯を食べることができた。
相手の緊張は伝わってくるものの、植物や花の話題を振ってやれば笑顔で応えてくれるし、亨にとっては居心地の良い時間だった。
そんな葵との時間はあっという間に感じて食事を終え、店の外に出ると既に日が暮れ初めていた。亨はお腹も満たされ、茜色の空に向かって思いっきり背伸びてみる。
「葵、今日は奢ってくれてありがとう」
亨はのびをした後、一歩下がった所にいる葵に向かって振り向く。何気なく御礼の言葉を言っただけなのに、葵は目を見開き、突然固まったように「葵·····」と呟いた。
流石にいきなり名前の呼び捨ては癇に障ってしまったのだろうか……。
「呼び捨てダメだった?ごめん。ダメだったというか先輩だからちゃんと先輩付けるべきだよな……」
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