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返ってきたジャージと彼の香り
返ってきたジャージと彼の香り 3-2
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扉を開けるとそこに立っていたのはあの男だった。亨は一瞬だけ男を見ると机上にあった取り上げられた雑誌を再び読み始める。
まさかこんな場面で会うとは予想していなかった。
「あら、葵君。どうしたの?」
「あの·····指を切ってしまって·····」
「中入って。今、絆創膏持ってくるわね」
西田は先程の甘えた態度が嘘なくらい優しい保健室の先生を演じている。自分といる時と他の人がいる時では態度が違うことは日常茶飯事なので驚きはしない。
男は中に入ったものの目を伏せて、どこか落ち着きがない様子だった。西田は棚から救急箱を取り出し絆創膏を探し始める。
「おかしいわ。ないわね」
西田が救急箱の中を懸命に探しているその隣
で亨は机上に放り出されている絆創膏の箱を見つけた。
「ここにあるけど」
そう言って箱に手を伸ばし、西田へと渡す。
男の方に目線を向けると、男はハッとした表情でこちらを見ては、何か言いたげにしていたが、西田に絆創膏を渡されると直ぐに俯いた。
「葵君、その傷どうしたの?」
「·····ちょっと、その·····」
男は自分で絆創膏を怪我した右手の人差し指に巻くと返答に困っている様子で口籠った。
「さ、作業中に自分で切っちゃったんです」
「そう、ちゃんと気を付けるのよ」
「はい、すみません」
男は一礼する。西田が「いいのよ。謝らなくて」と言うと、保険室内が静かになった。
静かな部屋だからか男の「あの」と言う声がやけに響いて聞こえてくる。
雑誌から顔を上げると男はこちらを向いて明らかに自分に話しかけてきている雰囲気だった。
「あの、この前は有難うございました。
ジャージをお返ししたいのですが·····。今持ってなくて·····」
「ああ。今度でいいよ」
斜め向かいに座ってこちらと男を交互に見ている西田の視線が気になって仕方がなかった。
「でも、体育の授業とかありますし·····。
此処で待っててもらえますか?すぐ取って来ますので」
男はそう言い残すと焦ったように扉を開けては駆け足で出て行ってしまった。
同時にニコニコしていた西田の表情が少し歪む。
まさかこんな場面で会うとは予想していなかった。
「あら、葵君。どうしたの?」
「あの·····指を切ってしまって·····」
「中入って。今、絆創膏持ってくるわね」
西田は先程の甘えた態度が嘘なくらい優しい保健室の先生を演じている。自分といる時と他の人がいる時では態度が違うことは日常茶飯事なので驚きはしない。
男は中に入ったものの目を伏せて、どこか落ち着きがない様子だった。西田は棚から救急箱を取り出し絆創膏を探し始める。
「おかしいわ。ないわね」
西田が救急箱の中を懸命に探しているその隣
で亨は机上に放り出されている絆創膏の箱を見つけた。
「ここにあるけど」
そう言って箱に手を伸ばし、西田へと渡す。
男の方に目線を向けると、男はハッとした表情でこちらを見ては、何か言いたげにしていたが、西田に絆創膏を渡されると直ぐに俯いた。
「葵君、その傷どうしたの?」
「·····ちょっと、その·····」
男は自分で絆創膏を怪我した右手の人差し指に巻くと返答に困っている様子で口籠った。
「さ、作業中に自分で切っちゃったんです」
「そう、ちゃんと気を付けるのよ」
「はい、すみません」
男は一礼する。西田が「いいのよ。謝らなくて」と言うと、保険室内が静かになった。
静かな部屋だからか男の「あの」と言う声がやけに響いて聞こえてくる。
雑誌から顔を上げると男はこちらを向いて明らかに自分に話しかけてきている雰囲気だった。
「あの、この前は有難うございました。
ジャージをお返ししたいのですが·····。今持ってなくて·····」
「ああ。今度でいいよ」
斜め向かいに座ってこちらと男を交互に見ている西田の視線が気になって仕方がなかった。
「でも、体育の授業とかありますし·····。
此処で待っててもらえますか?すぐ取って来ますので」
男はそう言い残すと焦ったように扉を開けては駆け足で出て行ってしまった。
同時にニコニコしていた西田の表情が少し歪む。
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