Snow melts

なめめ

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chapter5

chapter5-4

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「カズくん落ち着いてるね。こういう場所慣れてるの?」
「いや……。俺も初めてだから、多少緊張はしてるよ」
「そっか……。俺だけじゃないんだ……。良かった」

 慎文は頬を赤らめ注がれていたグラスのワインに口をつけると両手をテーブルの下に下げてもじもじと身体を揺らしていた。

「今日は、カズくんと一日中過ごせるなんて思わなかったなあ……。洋服も買ってもらえるとは思ってなかった」
「お前もいい大人なんだから、ちゃんとした余所行きの服、一着くらい持ってても損はないだろ」
「うん……。大事に着る。俺、今日が今までで一番幸せだな……」

お皿の一点を見つめながらも言葉を零す慎文が高揚していることは一目見て分かった。

「大袈裟だろ」と軽く笑いながら返してやると向かい側から熱視線を感じた。

てっきり「大袈裟じゃない」と反論してきては「カズくんが好き」などと言ってくると思っていたので、何も言葉を発することなく唯見つめてくるだけの慎文の不自然さを感じる。

レストランに入った辺りから慎文の口数は減っていたし、緊張だけではない気がする。

そのうちに料理が運ばれてきて、和幸は慎文の視線から逃げるようにフォークを持つと「カズくん……」と名前を呼ばれて顔をあげた。

「カズくん、俺かっこいい?」

 まるで肯定の言葉を求められているかのように問われる。

和幸は問われたままに「まぁ、普段よりは……」と返してやると、慎文の顔が林檎のように赤く染まっていった。

「カズく……。かずゆきっ」

凄く嫌な予感がする。この後の言葉に慎文が何を求めているのか、奴からの雰囲気で読み解けてしまった。

「なんだよ」
「好きだよ……」

 いつも連呼しているような一方的な感情ではなくて、期待の意味を込めたような眼差しを向けられる。

和幸が視線を逸らしても、向かいの座席からの視線は注がれるばかりだった。直接的に聞かれたわけじゃないから今この場で答えてやる必要はない……。

「分かったから……。黙って食えよ」

 言葉を発した直後に心臓が強く握りつぶされたように良心が痛んだ。
「うん……」と返してきた慎文の声音が心なしか元気がない。

結局、慎文の気持ちに向き合えずにはぐらかしてしまった。


 今日一日中、一緒に過ごしていて、最初のような警戒心や嫌悪感はなかった。少しずつ慎文のことを理解してきている証拠だと思う。

慎文の楽しそうな表情は見ていて和幸までもが楽しくなったし、奴の笑顔は天使だった時の幼い慎文を彷彿とさせて愛でたい気持ちになる。

 だけど、和幸の感情は慎文と同等のものではない。
恋愛対象として慎文とキスをして身体を重ねるなんて考えた時、恐怖心の方が勝った。

 幼馴染だから、弟のようだから可愛がっているだけで自分は何度考えてみたところで慎文に対して恋情を抱くことはないのだと思う。

 だからと言って今日一日で天から地に落とすのはあまりにも無情なような気がして気が引けた。

奴が返事を待っている以上、答えてやらなければならないことは明確ではある。

じゃないと慎文の為にならない。

 何十年も叶うことのない相手を想い続けるのは慎文が幸せになれないからだ。

明日こそは告げなきゃな……。

 その後も食事をしながらも慎文の様子が気になって仕方がなかった。
和幸が熱視線を躱しただけでも悲しそうな顔をする慎文をこれ以上見たくないのは和幸の本心だった。
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