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chapter4
chapter4-13
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「そういえば、名前。俺、櫂理人。慎文と同中だった先輩。よろしくカズくん」
慎文に呼ばれるのですら抵抗のあるあだ名を馴れ馴れしく、ほぼ初対面で年下の男に呼ばれるのはあまりいい気がしない。怒り心頭したくなる心を抑えて、愛想笑いをする。
「慎文から存じてます。申し遅れましたが僕は……」
大人の所作を崩さぬように牽制するつもりで丁寧な物腰で自己紹介しようとしたとき、「知ってる。幼馴染の井波和幸だろ?」と横槍を入れられて、思わず息を呑んだ。
知っているにしても相手の話を最後まで聞くという概念がないのだろうか。
「よくご存じで……」
「慎文がさ、よく相談してきてたんだよ。カズくんのこと」
第三者から自分のことを話していたなど聞いてあまり心地いい気はしない。鋭く睨んでやると慎文は「ごめん……」と呟きながら俯いた。
幼い頃から慎文は正直にモノを話し、素直に受け止める性格だった。
だからと言って敬遠している先輩に対して易々と恋愛相談を持ち掛けていた奴もどうかと思うが、その純粋さ故にそうやって櫂にも上手く丸め込まれて、予期せぬ初体験を迎えてしまったのではないかと思えてくる。
「なぁ、慎文。いつからお前ら付き合ってんの?」
櫂がテーブルに肘をついて、身を乗り出して慎文に問う。
「さ、最近……」
「ふーん」
慎文は一瞬だけ和幸の方を見た後で、小さく呟く。
この件についても昨夜、慎文が櫂に交際していると公言した訳を「櫂に昔のように関係を迫られるのが怖かったから」と話してくれたが、正式じゃない故に多少の気負いがあるのだろう。目を瞑ってやってはいるが、和幸にとっては慎文と恋人同士など認めたくない関係だけに複雑な心境だった。
それを見透かすように櫂は目を細めて、慎文と和幸を交互に見てくる。男に向けられる視線が居心地悪い。見定めるというよりは警察の尋問に近いほど鋭い眼差しを向けられる。
和幸はあまりの居心地の悪さに慎文の身体を肘で小突いて、話題を振るように促した。
「せ、先輩は……。いないんですか。付き合っている人」
「いるわけないだろ。俺、特定のヤツは作らない主義だから」
貞操観念がなさそうな男だと思っていたが話を聞いていると正しくその通りで、軽蔑する。
暫くテンポが悪いながらも会話を続けていると最初に注文していたビールが運ばれてきたので乾杯をすることになった。
櫂が音頭をとり、あまり乗り気ではなかったが男のグラスに自分のグラスを合わせる。乾杯後、礼儀として一口だけ口をつけて隣を見遣ると慎文が両手でグラスを持っては、躊躇しているようだった。
手元のビールと睨めっこした後に、喉を鳴らすと口をつけては一気に飲み干す。
その姿を見て、櫂も調子づいてきたのか、慎文の次のグラスを注文すると饒舌に下世話な話を吹っ掛けてきた。慎文は顔を真っ赤にしながら櫂の話に頷いていたが、あまりに下品すぎて和幸の酒は進まない。
一刻も早く退散してしまいたかった。
「なあ、カズくんさあ。慎文どうよ?」
「どうって何が?」
「決まってんだろ、あっちの方だよ。此奴、気が小さいくせにアソコはでかいだろ?締めごたえあるでしょ?」
先程から男の話を聞き流してはいたが、「あの時の慎文との相性は今までで最高だった」など話していたので驚きはしなかったが、まさか他人の性の事情まで聞いてくるとは思わなかった。
「せ、先輩。カズくんの前でやめてよ」
「いいじゃん。カズくんだって知ってんだろ?お前とのセックス」
「ち、違うっ」
慎文は顔を俯け大きく首を振る。今にも泣きだしそうに顔を歪めている慎文を見て、流石の和幸もあまりの節操のなさに腹が立った。親交の深い仲間内ならともかく、唯の先輩後輩間でするような話ではない。
自ら話すならともかく、例え慎文と付き合っていたとしても他人に性事情を詮索されたくないのが当然だ。
「何、お前らまだなの?」
この期に及んで、男は慎文のことを気にも留めずに無神経に問うてくる。和幸は我慢ならずに座席から立ち上がると、激情に任せて財布からお札を取り出すとテーブルに叩きつけた。
慎文に呼ばれるのですら抵抗のあるあだ名を馴れ馴れしく、ほぼ初対面で年下の男に呼ばれるのはあまりいい気がしない。怒り心頭したくなる心を抑えて、愛想笑いをする。
「慎文から存じてます。申し遅れましたが僕は……」
大人の所作を崩さぬように牽制するつもりで丁寧な物腰で自己紹介しようとしたとき、「知ってる。幼馴染の井波和幸だろ?」と横槍を入れられて、思わず息を呑んだ。
知っているにしても相手の話を最後まで聞くという概念がないのだろうか。
「よくご存じで……」
「慎文がさ、よく相談してきてたんだよ。カズくんのこと」
第三者から自分のことを話していたなど聞いてあまり心地いい気はしない。鋭く睨んでやると慎文は「ごめん……」と呟きながら俯いた。
幼い頃から慎文は正直にモノを話し、素直に受け止める性格だった。
だからと言って敬遠している先輩に対して易々と恋愛相談を持ち掛けていた奴もどうかと思うが、その純粋さ故にそうやって櫂にも上手く丸め込まれて、予期せぬ初体験を迎えてしまったのではないかと思えてくる。
「なぁ、慎文。いつからお前ら付き合ってんの?」
櫂がテーブルに肘をついて、身を乗り出して慎文に問う。
「さ、最近……」
「ふーん」
慎文は一瞬だけ和幸の方を見た後で、小さく呟く。
この件についても昨夜、慎文が櫂に交際していると公言した訳を「櫂に昔のように関係を迫られるのが怖かったから」と話してくれたが、正式じゃない故に多少の気負いがあるのだろう。目を瞑ってやってはいるが、和幸にとっては慎文と恋人同士など認めたくない関係だけに複雑な心境だった。
それを見透かすように櫂は目を細めて、慎文と和幸を交互に見てくる。男に向けられる視線が居心地悪い。見定めるというよりは警察の尋問に近いほど鋭い眼差しを向けられる。
和幸はあまりの居心地の悪さに慎文の身体を肘で小突いて、話題を振るように促した。
「せ、先輩は……。いないんですか。付き合っている人」
「いるわけないだろ。俺、特定のヤツは作らない主義だから」
貞操観念がなさそうな男だと思っていたが話を聞いていると正しくその通りで、軽蔑する。
暫くテンポが悪いながらも会話を続けていると最初に注文していたビールが運ばれてきたので乾杯をすることになった。
櫂が音頭をとり、あまり乗り気ではなかったが男のグラスに自分のグラスを合わせる。乾杯後、礼儀として一口だけ口をつけて隣を見遣ると慎文が両手でグラスを持っては、躊躇しているようだった。
手元のビールと睨めっこした後に、喉を鳴らすと口をつけては一気に飲み干す。
その姿を見て、櫂も調子づいてきたのか、慎文の次のグラスを注文すると饒舌に下世話な話を吹っ掛けてきた。慎文は顔を真っ赤にしながら櫂の話に頷いていたが、あまりに下品すぎて和幸の酒は進まない。
一刻も早く退散してしまいたかった。
「なあ、カズくんさあ。慎文どうよ?」
「どうって何が?」
「決まってんだろ、あっちの方だよ。此奴、気が小さいくせにアソコはでかいだろ?締めごたえあるでしょ?」
先程から男の話を聞き流してはいたが、「あの時の慎文との相性は今までで最高だった」など話していたので驚きはしなかったが、まさか他人の性の事情まで聞いてくるとは思わなかった。
「せ、先輩。カズくんの前でやめてよ」
「いいじゃん。カズくんだって知ってんだろ?お前とのセックス」
「ち、違うっ」
慎文は顔を俯け大きく首を振る。今にも泣きだしそうに顔を歪めている慎文を見て、流石の和幸もあまりの節操のなさに腹が立った。親交の深い仲間内ならともかく、唯の先輩後輩間でするような話ではない。
自ら話すならともかく、例え慎文と付き合っていたとしても他人に性事情を詮索されたくないのが当然だ。
「何、お前らまだなの?」
この期に及んで、男は慎文のことを気にも留めずに無神経に問うてくる。和幸は我慢ならずに座席から立ち上がると、激情に任せて財布からお札を取り出すとテーブルに叩きつけた。
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