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chapter4
chapter4-7
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「俺、会社戻るわ」
これ以上、男と慎文のやり取りを傍観するに堪えられず、沈黙が訪れた隙をみて声を掛ける。奴が誰と仲良くしようが関係ないはずなのに気になっている自分に嫌気がさす。逃げるように踵を返し会場の出口の方へ一歩踏み出したところで「待って、カズくん」と声を掛けられた。
「カズくん?お前がカズくん?」
慎文ではない声が和幸の名を呼ぶ。和幸が振り返ると慎文と話していた男が眉間に皺を寄せて詰め寄ってきた。向こうは和幸のことを知っているのかメンチを切るように睨みつけてくる。
和幸自身、この男とは初対面だ。
「そうですが……。僕は貴方のことを存じあげませんが……?」
「へー。慎文と付き合ってんの?」
男から敵意を感じる。傍観していた時から自分には相性が良くない性格なような気はしていたが、初対面で不躾な質問をしてくる男に不信感が募る。
この手の質問をしてくるということは、慎文と男は単なる先輩後輩の関係ではないことは明確だった。僅かな可能性が頭を過らせる。
もしかしてこの男は慎文が遠い昔に初体験を済ませた男なのではないのだろうか……。慎文に視線を移すと目を泳がせて顔面蒼白としていた。
多方面から好意を寄せられるのであろう慎文の容姿。慎文が和幸に好意を寄せる要因がこの男にあるのではないかと思うと腹立たしくなってきた。
変な誤解をされて勝手に敵意を向けられても困る。同じ土俵にあげられるなんて勘弁してほしい。
男の問いに否定をしようと口を開いたところで、奥の方から「つ、付き合ってるよ」と精一杯の慎文の声が聞こえて愕然とした。
「お前、何言って……」
「付き合ってる‼カズくんと付き合ってるから……」
否定の言葉を掻き消すように慎文は男に宣言してくる。
何を思って慎文が第三者の前で堂々と宣言したのかは知らないが、自分たちの関係は確かに恋人ではあるけど正式なものじゃない。あくまでごっこだ。
数日もすればただの幼馴染で終わる関係に他言する意味が分からない。慎文も男に宣言している割には、一切目を合わせようとしていなかったので嘘をついているのだと自覚はしているのだろう。
「へぇ。良かったじゃん。でも残念。フリーだったら、昔みたいに相手してやろうかと思っていたのに」
男は慎文に近づいて右腕を引くと、顎を持ち上げて奴の顔をねぶるように眺めた。
一方で慎文は口を一文字に結んで目を瞑ると「やだ……」と言いながら男の手を払い落とす。男は慎文の拒絶に諦めたのか再び和幸の方に向かってくると「慎文、やたらと上手いだろ?調教してやったの、俺だから」と耳元で囁かれて、あまりの悪寒から鳥肌が立った。
和幸が言い返す間もなく、人混みの中に消えていく男。肝心の慎文は心ここにあらずの状態で浮かない表情のままだし、何より勝手に敵対心を抱かれて、マウントを取るような言葉を投げ捨てられたことが不愉快だった。嘘をついた慎文もそうだが、あの男にも腹が立つ。
結局、向こうの名前すら分からないまま、無礼極まりない態度を取られて、反論もできなかった自分が不甲斐なかった。
これ以上、男と慎文のやり取りを傍観するに堪えられず、沈黙が訪れた隙をみて声を掛ける。奴が誰と仲良くしようが関係ないはずなのに気になっている自分に嫌気がさす。逃げるように踵を返し会場の出口の方へ一歩踏み出したところで「待って、カズくん」と声を掛けられた。
「カズくん?お前がカズくん?」
慎文ではない声が和幸の名を呼ぶ。和幸が振り返ると慎文と話していた男が眉間に皺を寄せて詰め寄ってきた。向こうは和幸のことを知っているのかメンチを切るように睨みつけてくる。
和幸自身、この男とは初対面だ。
「そうですが……。僕は貴方のことを存じあげませんが……?」
「へー。慎文と付き合ってんの?」
男から敵意を感じる。傍観していた時から自分には相性が良くない性格なような気はしていたが、初対面で不躾な質問をしてくる男に不信感が募る。
この手の質問をしてくるということは、慎文と男は単なる先輩後輩の関係ではないことは明確だった。僅かな可能性が頭を過らせる。
もしかしてこの男は慎文が遠い昔に初体験を済ませた男なのではないのだろうか……。慎文に視線を移すと目を泳がせて顔面蒼白としていた。
多方面から好意を寄せられるのであろう慎文の容姿。慎文が和幸に好意を寄せる要因がこの男にあるのではないかと思うと腹立たしくなってきた。
変な誤解をされて勝手に敵意を向けられても困る。同じ土俵にあげられるなんて勘弁してほしい。
男の問いに否定をしようと口を開いたところで、奥の方から「つ、付き合ってるよ」と精一杯の慎文の声が聞こえて愕然とした。
「お前、何言って……」
「付き合ってる‼カズくんと付き合ってるから……」
否定の言葉を掻き消すように慎文は男に宣言してくる。
何を思って慎文が第三者の前で堂々と宣言したのかは知らないが、自分たちの関係は確かに恋人ではあるけど正式なものじゃない。あくまでごっこだ。
数日もすればただの幼馴染で終わる関係に他言する意味が分からない。慎文も男に宣言している割には、一切目を合わせようとしていなかったので嘘をついているのだと自覚はしているのだろう。
「へぇ。良かったじゃん。でも残念。フリーだったら、昔みたいに相手してやろうかと思っていたのに」
男は慎文に近づいて右腕を引くと、顎を持ち上げて奴の顔をねぶるように眺めた。
一方で慎文は口を一文字に結んで目を瞑ると「やだ……」と言いながら男の手を払い落とす。男は慎文の拒絶に諦めたのか再び和幸の方に向かってくると「慎文、やたらと上手いだろ?調教してやったの、俺だから」と耳元で囁かれて、あまりの悪寒から鳥肌が立った。
和幸が言い返す間もなく、人混みの中に消えていく男。肝心の慎文は心ここにあらずの状態で浮かない表情のままだし、何より勝手に敵対心を抱かれて、マウントを取るような言葉を投げ捨てられたことが不愉快だった。嘘をついた慎文もそうだが、あの男にも腹が立つ。
結局、向こうの名前すら分からないまま、無礼極まりない態度を取られて、反論もできなかった自分が不甲斐なかった。
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