Snow melts

なめめ

文字の大きさ
上 下
19 / 77
chapter3

chapter3-4

しおりを挟む
食器を洗い終え、慎文とともに市街地の方へと繰り出す。家電や雑貨をみてウィンドーショッピングを楽しんでから大きな商業施設の中にあるゲームセンターへとたどり着いた。

慎文の希望通りにゲームセンター内にあるレースゲームの台の椅子に腰かける。隣の台の椅子には慎文が瞳を輝かせながら座っていた。

何年ぶりだろうか。大学生のとき、友人と遊び歩いていた時以来のような気がする。当然その時も友人と勝負してほぼ勝っていた記憶があった。

あれだけ慎文の前ではいい大人がと思っていたけど、いざハンドルを目の前にして、昔の血が騒いでワクワクとした。

「ねぇ、カズくん」

 コインを入れようとしたところで慎文に問われて顔を上げる。

「なんだ?」
「俺が勝ったら、俺の望みを聞いてほしい」

 目を伏せながらそう提案してきた慎文の意図がようやく理解できた。急にゲームをしたいと誘ってきたのは、この為だったのだと。
けれど、この勝負には負けない自信があった。

「へぇ。いいけど。じゃあ、その代わりにお前が負けたらすぐに実家に帰れよな」
「うん、いいよ」

 どうせ勝利は見えているので望みの内容を訊いてやる必要もない。

しかし、慎文だけ対価があるのは面白くなくて、和幸は自分への対価を提案すると、慎文は躊躇いながらも頷いては、交渉が成立した。

 一日中牧場で牛の世話をしていてゲームと縁もゆかりもない奴に負ける訳にいかない。和幸の闘争心に火がつく。

 ゲームを開始してカウントダウンと共にアクセルを踏むと画面上の車が発進する。最初は順調であった。

慎文の前をキープして独走していたし、このまま最後まで行けば圧勝だった。

そう油断していると、慎文が怒涛の追い上げをみせてきては、カーチェイスが始まる。

和幸は声をあげながらもハンドルを回すが、隣からは一切何も声が聞こえなかったので一瞬だけ画面から目線を逸らすと、奴は真剣にハンドルを握って画面に集中している。 
 
自分も負けてられないと奮起したものの目を離してしまったのが運の尽き、奴に弾き飛ばされてバランスを崩すと、瞬く間にクラッシュしてしまい、奴に優勝を奪われてしまった。

和幸はショックのあまり、ハンドルに拳を叩いて、額につける。ただの友人同士の戦いであったら何とも思わないのに、こんなに敗北が悔しいのは相手が奴であるからだった。

「勝った‼カズくんに勝ったよ‼」
 ゲームが終わるなり、慎文は瞳をきらきらと輝かせながら此方に話し掛けてくる。

「お前ってそんなにゲーム巧かったっけ」
「カズくんがこういうゲームが得意なのを知っていたから、カズくんに会えないときは俺の隣町のデパートに連れて行ってもらって遊んでいたんだ。いつかカズくんに褒めてもらいたくて……」

 次男坊の負けず嫌い説は有力なのか、意図もたやすく和幸の実力を追い抜かしていく奴が怖い。

そして、俺に対する執着心も。勝てると自信過剰に意気込んで奴の対価を受けてしまった自分に後悔する。

和幸が落ち込む暇もなく、上機嫌な奴は、ハンドルを握っていた和幸の手を強引に取ると、両手で包んできた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...