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chapter3
chapter3-3
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「まだ来たばっかりだし、帰りたくないよ……。カズくんと全然話せてないっ」
和幸の言葉を気にしているのか、頭を俯けてあからさまな落ち込んだ様子をみせる。
お通夜のような重たい空気で食う朝飯ほど不味いものはない。
嫌いな奴に気を遣うのも変な話ではあるが、和幸は深く溜息を吐き、「居てもいいけど、余計なことはするなよ」と言ってやると慎文は「うん」と嬉しそうに頷いた。
取り戻した空気とニヤニヤと笑みを浮かべて此方を見てくる向かいからの視線を気にしながらも和幸は、朝食をかき込むと「御馳走様でした」と両手を合わせて即座に食器を台所へと運ぶ。
未だに御飯を食べている慎文をいいことに、そのまま部屋へ直行しようと足を進めると、奴は慌てたように座席を立って、ドアノブを握ったところで左腕を掴んできた。
「ひっ」
不意の出来事に思わず声にならない悲鳴が喉を鳴らす。
「待って。カズくんと出かけたい」
「お前と出かけるなんて、俺は嫌だ」
「それじゃあ、俺が来た意味ないじゃん……。少しくらい俺に付き合ってよ」
掴まれた腕に力が込められる。唇を噛んで寂しそうな表情を浮かべている。和幸の一番苦手な顔だ。拒絶をしたところで此奴は意地でも離れてくれないような気がした。自分の細めの腕と奴の逞しい腕では見た目からして力の差があるのが分かる。
「分かったから離せ。行きたいところ考えておけよ」
それに、外出をすれば周りを気にして慎文も必要以上に接近してこないような気がした。
慎文と一緒に居る以上、奴と行動を共にしなければならないのは避けられないだろうし、どちらか選択をしなければならないなら外出を選ぶ方が得策だろう。
和幸からの許可を得て余程嬉しかったのか、慎文は掴んだ手を潔く離すと両手を挙げて子供のように喜々としていた。
和幸は、深い溜息を吐きながら台所へ向かうと、水道から水を出してはスポンジを握る。どうせ出掛けなければならないのであれば食器を片付けてしまいたい。
無言で作業を始めた和幸を見てか、慎文が「俺も手伝う」と食器布巾を手に取ると隣で和幸が洗ったお皿たちを拭き始めた。
「お前、どこ行きたいんだよ」
「んー……。レースゲームがしたい」
朝食で使った皿を洗いながら慎文に問い掛けると、奴は暫く考えた素振りを見せると耳朶を赤くさせながらそう答えた。
「わざわざこっちまできてゲーセンって学生のやることだろ」
「だって、カズくんと遊びたいから」
確かに慎文を警戒する出来事が起きる前は、自宅でゲームばかりしていた。しかしそれは、中学生や高校生だった頃の話。
大の大人がゲームセンターって……。
こんな寒い日に乗り気にはならなかったが、拒否したところで、「じゃあ、家にあるゲームで」となればまたうっかりキスをされたんじゃ洒落にならない。
だからと言って他の案は浮かばず、暇をつぶせるのであれば快諾するしかなかった。鬱々としている傍らで慎文は鼻歌を口ずさみながら、拭いた食器を棚に片付けていた。
これだけ見れば素直でいい奴なのは分かる。家事だって率先してやってくれるし、特別な感情さえなければ可愛い弟分で済んだのかと思うとやるせなかった。
和幸の言葉を気にしているのか、頭を俯けてあからさまな落ち込んだ様子をみせる。
お通夜のような重たい空気で食う朝飯ほど不味いものはない。
嫌いな奴に気を遣うのも変な話ではあるが、和幸は深く溜息を吐き、「居てもいいけど、余計なことはするなよ」と言ってやると慎文は「うん」と嬉しそうに頷いた。
取り戻した空気とニヤニヤと笑みを浮かべて此方を見てくる向かいからの視線を気にしながらも和幸は、朝食をかき込むと「御馳走様でした」と両手を合わせて即座に食器を台所へと運ぶ。
未だに御飯を食べている慎文をいいことに、そのまま部屋へ直行しようと足を進めると、奴は慌てたように座席を立って、ドアノブを握ったところで左腕を掴んできた。
「ひっ」
不意の出来事に思わず声にならない悲鳴が喉を鳴らす。
「待って。カズくんと出かけたい」
「お前と出かけるなんて、俺は嫌だ」
「それじゃあ、俺が来た意味ないじゃん……。少しくらい俺に付き合ってよ」
掴まれた腕に力が込められる。唇を噛んで寂しそうな表情を浮かべている。和幸の一番苦手な顔だ。拒絶をしたところで此奴は意地でも離れてくれないような気がした。自分の細めの腕と奴の逞しい腕では見た目からして力の差があるのが分かる。
「分かったから離せ。行きたいところ考えておけよ」
それに、外出をすれば周りを気にして慎文も必要以上に接近してこないような気がした。
慎文と一緒に居る以上、奴と行動を共にしなければならないのは避けられないだろうし、どちらか選択をしなければならないなら外出を選ぶ方が得策だろう。
和幸からの許可を得て余程嬉しかったのか、慎文は掴んだ手を潔く離すと両手を挙げて子供のように喜々としていた。
和幸は、深い溜息を吐きながら台所へ向かうと、水道から水を出してはスポンジを握る。どうせ出掛けなければならないのであれば食器を片付けてしまいたい。
無言で作業を始めた和幸を見てか、慎文が「俺も手伝う」と食器布巾を手に取ると隣で和幸が洗ったお皿たちを拭き始めた。
「お前、どこ行きたいんだよ」
「んー……。レースゲームがしたい」
朝食で使った皿を洗いながら慎文に問い掛けると、奴は暫く考えた素振りを見せると耳朶を赤くさせながらそう答えた。
「わざわざこっちまできてゲーセンって学生のやることだろ」
「だって、カズくんと遊びたいから」
確かに慎文を警戒する出来事が起きる前は、自宅でゲームばかりしていた。しかしそれは、中学生や高校生だった頃の話。
大の大人がゲームセンターって……。
こんな寒い日に乗り気にはならなかったが、拒否したところで、「じゃあ、家にあるゲームで」となればまたうっかりキスをされたんじゃ洒落にならない。
だからと言って他の案は浮かばず、暇をつぶせるのであれば快諾するしかなかった。鬱々としている傍らで慎文は鼻歌を口ずさみながら、拭いた食器を棚に片付けていた。
これだけ見れば素直でいい奴なのは分かる。家事だって率先してやってくれるし、特別な感情さえなければ可愛い弟分で済んだのかと思うとやるせなかった。
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