Snow melts

なめめ

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chapter2

chapter2-9

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途端に皿がガタンと揺れる音がして驚きのあまり体が跳ねる。慎文がテーブルを叩いて両手をついてきていた。

「……かないでほしい」
「はい……?」

 少しだけ怒気が込められた声音で呟かれる。和幸が聞き返すと、慎文は立ち膝になり、右腕を掴んできた。

「ひぃ……」
「行かないでほしい。こっちに戻ってきてよ」
「な、なんだよ。お、お前に関係ねぇだろっ」
「関係あるよっ」

 和幸は身体を反らして慎文と距離をとろうとしたが、腕の力は込められるばかりで離れない。

高校生とはいえ、奴が通っているのは農学校。日頃実習で力仕事をしている奴の力量は、家でゲームや読書をしている和幸とは比ではなかった。

再びの悪夢を警戒しながらも、そんな和幸に気づかない慎文は赤面させて口をパクパクと動かしては何か言葉を躊躇っているようだった。

「オレ、オレ……。カズくんのことが好きだからっ」
「はい?」

 漸く振り絞って言ってやったと言うように目元を強く瞑って慎文が発言した。その言葉を聞いた途端に和幸の嫌悪感に拍車がかかる。
 あのキスの時から薄々気づいてはいた。慎文が性愛的な意味で自分に好意を寄せていることを。だから避けてきた。

「じょ、冗談いうなよ。き、気持ち悪いっ」
「冗談じゃないよ。カズくんのこと好きだからずっと一緒に居たいっ。だから行かないでよ」
「嫌だ。触んなよっ」

 不可抗力であっても部屋に上げてしまったことを強く後悔した。これ以上は自分の身に危険が襲われるような気がしてならない。

また強引にキスをされるなんて御免だ。和幸は腕を大きく振り払うと部屋の扉口まで駆けだそうとしたが、慎文が立ち塞がってくる。

逃げたくても逃げられない、ライオンの檻に入れられた兎の気持ちで詰め寄ってくる慎文から一歩ずつ後退って離れることしかできなかった。

「お前っ、男だろ。俺はそんな性癖じゃない。気持ち悪いからさっさと帰れよっ」
「嫌だ。帰ったらカズくんにもう会えなくなる。ねえ、カズくん。俺のモノになって?」

 机に上がっている目覚まし時計や鉛筆たてを必死に投げて抵抗するが、奴は全く動じずに和幸だけを捉えて近づいてくる。

一歩一歩後退りながら夢中で逃げて居ると、膝裏がベッドの縁に当たり、バランスを崩して尻餅をついてしまった。

この状況は一番まずいと野生の感が働く。慌てて腰を持ち上げようとしたところで、顎を強引に掴まれて唇を塞がれてしまった。
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