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chapter2
chapter2-8
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沈黙の部屋の中でミニテーブルを挟んで慎文と向かい合って座る。和幸は特に自ら話題を切り出すことも無く、気まずさを紛らわすために、無心で母親が持ってきた紅茶と焼き菓子を頬張っていた。
これは二丁先のケーキ屋のだろうかなんて、どうでもいいことを考えながら慎文が帰ると切り出してくるのを待つ。
ふと視線を感じて向かいの男を見遣ると目が合い、不自然に逸らされてしまった。律儀に正座なんかをして、無駄に姿勢よく背筋を伸ばしている。
紅茶や菓子が減っていないことから、慎文から緊張感のようなものを感じたが、和幸は気に留めずに沈黙を続ける。
「カズくん……元気だった?」
唐突に上擦った声で慎文に問われる。ありきたりな世間話。さっさと用件が済んだら出て行って欲しい和幸にとって、そんな回りくどい会話は煩わしいほかなかった。
「ああ……」
「そっか、良かった。俺も、元気だったよ。今は高校二年生になって、学校は寮にも入ってる」
「ああ、母さんから聞いてる」
「そっか……」
話題を簡潔させようと適当な返事をする。
慎文はそんな淡泊な返答でもめげずに身の上話を始めたが直ぐに和幸の反応に目を伏せてしまった。
改めて見ると自分より一回り大きな体の奴に身震いする。頭の片隅に追いやっていた昔の出来事を思い出しては気分が悪くなったが少しでも弱みをみせるわけにいかなかった。
「カズくんは……。もうすぐ大学卒業だよね?こっちに帰ってくるの?」
顔を上げた慎文が頬を染めながら何かを期待したような眼差しで此方を見てくる。
そんなわけあるか、と心の中で蔑みながらも「就職は向こうでするから……」と冷静な心で報告すると、テーブルが少しだけガタッと動いて身体がビクリと反応する。
「えっ……。カズくんはもうこっちに帰ってくることはないの?」
食い気味でテーブルに乗り出してくる慎文への警戒心から和幸は少しだけ腰をずらして体を引かせる。和幸が町から出て行けば帰省でもしない限り会うことはないだろう。
慎文の将来は高校を卒業したら家業を手伝う未来は決まっている。そうなれば街に出てくるという選択肢はないはずだ。だから奴と会うのは実質これが最後だ。
「ない」
「でも年末には帰ってくるよね?そしたらまた……」
「それもきっとない。忙しくなるだろうし」
忙しくなるなんて言い訳で内定の決まっている会社は土日祝日休みの経理関係の仕事だ。
お盆や年末ともなれば大型連休は貰えるだろうし、実家に帰省することだってできる。けれど和幸の実家が慎文の隣である以上、帰れば顔を合わせる可能性が出てくるのも事実だ。
例えそれが年に一度あるかないかだったとしても、今の和幸には一番避けたい状況だった。
これは二丁先のケーキ屋のだろうかなんて、どうでもいいことを考えながら慎文が帰ると切り出してくるのを待つ。
ふと視線を感じて向かいの男を見遣ると目が合い、不自然に逸らされてしまった。律儀に正座なんかをして、無駄に姿勢よく背筋を伸ばしている。
紅茶や菓子が減っていないことから、慎文から緊張感のようなものを感じたが、和幸は気に留めずに沈黙を続ける。
「カズくん……元気だった?」
唐突に上擦った声で慎文に問われる。ありきたりな世間話。さっさと用件が済んだら出て行って欲しい和幸にとって、そんな回りくどい会話は煩わしいほかなかった。
「ああ……」
「そっか、良かった。俺も、元気だったよ。今は高校二年生になって、学校は寮にも入ってる」
「ああ、母さんから聞いてる」
「そっか……」
話題を簡潔させようと適当な返事をする。
慎文はそんな淡泊な返答でもめげずに身の上話を始めたが直ぐに和幸の反応に目を伏せてしまった。
改めて見ると自分より一回り大きな体の奴に身震いする。頭の片隅に追いやっていた昔の出来事を思い出しては気分が悪くなったが少しでも弱みをみせるわけにいかなかった。
「カズくんは……。もうすぐ大学卒業だよね?こっちに帰ってくるの?」
顔を上げた慎文が頬を染めながら何かを期待したような眼差しで此方を見てくる。
そんなわけあるか、と心の中で蔑みながらも「就職は向こうでするから……」と冷静な心で報告すると、テーブルが少しだけガタッと動いて身体がビクリと反応する。
「えっ……。カズくんはもうこっちに帰ってくることはないの?」
食い気味でテーブルに乗り出してくる慎文への警戒心から和幸は少しだけ腰をずらして体を引かせる。和幸が町から出て行けば帰省でもしない限り会うことはないだろう。
慎文の将来は高校を卒業したら家業を手伝う未来は決まっている。そうなれば街に出てくるという選択肢はないはずだ。だから奴と会うのは実質これが最後だ。
「ない」
「でも年末には帰ってくるよね?そしたらまた……」
「それもきっとない。忙しくなるだろうし」
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お盆や年末ともなれば大型連休は貰えるだろうし、実家に帰省することだってできる。けれど和幸の実家が慎文の隣である以上、帰れば顔を合わせる可能性が出てくるのも事実だ。
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