3 / 18
chapter1
chapter1-2
しおりを挟む和幸は画面から視線を逸らすと胸に手を当てて両腕を摩った。奴を目にした途端に鳥肌が立ち、恐怖で心拍数が上がる。
そうこうしているうちに再びインターホンが鳴る。
居留守を使っても良かったが、母親の留守電を聞いてしまった手前無視をするわけにいかない。
それに此奴の性格上、忠犬のように玄関扉の前で和幸が出てくるまで待っていても可笑しくなかった。流石に地元の三歳下の幼馴染を氷点下の中置き去りにできるほどの薄情ではない。
和幸は足取りを重たくさせながら玄関先へと向かい、鍵を開ける。扉を開けた先には、案の定、名前を出すもの嫌悪するほどの和幸の天敵、矢木田慎文が立っていた。
母親同士が同級生で仲が良く、家も隣同士で幼いほど見飽きるほど合わせていた顔。和幸の自宅に泊まる気満々であろう、大きいボストンバックを右肩に提げて、手元には紙袋と保冷バック。
慎文は玄関先へと足を踏み入れるなり、手元のバック類を全て三和土に置くと、扉を開けて廊下に佇んでいた和幸の腹部を目がけて思い切り抱きついてきた。
「久しぶりっ。カズくんっ‼」
「うわあああああ」
腰のあたりに腕を回されて、恐怖に慄いた和幸は慎文の勢いのあるタックルも相まって、盛大に尻餅をついた。
一応、抱きつかれてはいるものの、慎文は和幸より一回りほど体格の大きいので抱き締められているみたいになる。
「お、おいっ。やめろっ、離れろよ。重いし近いっ」
ズルズルと這うようにして、顔に近づいてくる慎文の額を抑えてどうにか抜け出そうと試みるが、大きい体から逃げ出すのは困難だった。
「連絡の返事なかったから、家に居ないんじゃないかって怖かったんだよ」
慎文が来ると分かって怖かったのは自分の方だと言ってやりたいが、言ったところで此奴には何一つ響かない。
此奴が言っているように何日か前に本人からご丁寧に『カズくん、今週末遊びに行くからね』と連絡は入っていたが、既読しただけで無視をしてた。それを今の今まで忘れていた自分が悔しい。
憎たらしいほど満面の笑みを浮かべて見つめてくる慎文に苦笑を浮かべながらも身じろぎ続ける。
和幸が返事スルーして遠回しに訪問拒否をアピールしていても、週末の早朝に押しかけてくるのだから完全に確信犯である。
「早くカズくんに会いたくて、昨日の夜からバスに乗ってきたんだ」
「だ、だからなんだよ。いい加減に離れろよ」
慎文の額を抑える手が微かに震える。迫ってくる此奴が和幸にとっては恐怖の対象でしかない。
「カズくん……。キスしたい」
「はぁ⁉」
そんな相手に急にキスを迫られて和幸の思考が驚きのあまり停止する。慎文とキスでもしたらそれだけでは済まされないことは明確だった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる