憧れはすぐ側に

なめめ

文字の大きさ
上 下
215 / 243
甘くて醒めない気持ち

29-1

しおりを挟む
律の10周年コンサートの本編が終わり、会場のお客さんがアンコールを求める声を向ける中、自分たちの周りの座席の人達はぞろぞろと帰っていく。

中にはテレビで見覚えがあるような人物もいたが、渉太は律以外の芸能人には興味が薄いので、大物俳優とかじゃない限り、そこら辺は疎い。

それよりも自分の辺りが居なくなるので、自分も出たほうがいいのではないかとさえ思えてくる。そんな渉太の様子を見てからか、先輩から「渉太はもうちょっと、律の姿見たいだろ?」と問われたので、考えていたことを止めて大きく首を振って頷いた。

あまり最後までいると会場を出る人で混雑するのを読んで、避けるためにアンコールを少しだけ観て会場を後にした。先輩に藤咲との話、律のコンサートについて話しながら同じ電車に乗り、大学の最寄りで降りると、大学に用事があるからと言って先輩と別れる。

時刻は22時半、こんな時間まで勉強熱心な先輩に関心しながら、駅の駐輪場で自転車の鍵を外していると、ポケットのスマホが鳴ったことに気づいて確認する。アプリを開くと律仁さんからのメッセージが来ていた。

『渉太、もう家?』
「今、最寄り駅に着いて家に帰るところです」

送って直ぐに既読がついたので、驚いていると、時間をあまり置かないうちに直ぐに返事が返される。

『じゃあ、アトリエに来れる?』
「大丈夫ですけど律仁さん、疲れてるんじゃ……」
『渉太に会いたいからさ、じゃあ待ってて。俺も真っ直ぐ向かうから』

アライグマが投げキッスをしているスタンプと共に送られてきては、誰も見ていないはずなのに妙に恥ずかしくて、思わず周りを見渡してしまう。

渉太は律仁さんの愛情表現にむず痒さを覚えながらも、律仁さんのこういう所は意地らしくて愛おしい。今日は会えないと思っていたので会える約束は素直に嬉しかった。

ほぼコンサートは見れてはいなかったけど、あの曲の感動は本人に伝えたい。せめてメッセージだけは今日のうちに残そうと思っていたので、熱が覚めないうちに伝えることが出来ると思うと胸が高鳴っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...