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夜の遊園地
27-4
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渉太は下手に途中で口を挟むのも違うような気がして黙って藤咲の話を聞く。
自分の知らない藤咲の生い立ちが、比較的平凡な家庭で暮らしてきた渉太には想像つかないような壮絶さを感じた。
誰にも話せず一人抱え込んでいた藤咲は長山の兄に父親との関係を見ていた事を勘づかれて脅迫紛いのセクハラにあっていた。
しかし、そんな隠し事は長く続くわけもなく自身の異変に母親が気づいて隠しておくことが出来ずに父親と先輩のお兄さんの関係を藤咲の口からバラした。
離婚して母親に引き取られ、母親の実家である渉太の地元越してきたが、藤咲のピアノの才能に執着していた母親は藤咲のことを祖母に任せて放ったらかしにしては藤咲の為だと夜の仕事をしては男を転々として援助してもらって今の自分があること。
過去の出来事から自分に寄ってくる男が不愉快で、触れられるのは悪寒がするほど嫌だった。なのに誑かしていたのは、幼少期の時に何も出来なかった自分への憂さ晴らしをするためだったと全て話してくれた。
「自分の感情で僕は沢山傷つけてきた。好きだって言われて曖昧な態度をとっといて、相手が恋に溺れてきたと思ったら相手に触れられる前に突き放す」
藤咲は眉を下げては鼻で笑うようにしていたのにも拘わらず、自然と嫌な気持ちにならなかったのは、俺や藤咲に関わってきた奴らにじゃなくて藤咲自身に笑っているように見えたからだ。
「渉太が僕のことが好きだったのは最初から気づいてたよ。きっかけさえ与えればこういうやつは本性表して僕のことを食い物にするとさえ思ってた」
藤咲は窓の外から俺の方に顔を向けて、何一つ変えない表情で俺を見据えてきた。
少し釣り上がりのあるその双眸と目を合わせながら告げられる、あの時のこと。
正直、藤咲への好意をそう思われていたことがショックだったけど、過去の話を聞いた後だけに咎める気にはならなかった。
「けど僕からキスしてみても渉太が告白をしてきても君はずっと俺の側にいるだけで何ももしてこなかったから驚いてたんだ。今までの奴は、キスした途端迫って来るやつが多かったから……」
藤咲のことを一丁前に好意を寄せていたくせに当時の自分は藤咲に迫れるほどの自信がなかった。相手の気持ちを気にして聞くことも出来ず、行動にすらできなかった臆病者。
自然と強く握りしめる拳に食いしばる奥歯。
例え事実が自分の傷を深めることだとしても藤咲が真剣に話してくれている。受け止めなきゃいけない。
渉太は藤咲の話すことひとつひとつに対しての感情を抑えるのに自然と力が入っていた。
自分の知らない藤咲の生い立ちが、比較的平凡な家庭で暮らしてきた渉太には想像つかないような壮絶さを感じた。
誰にも話せず一人抱え込んでいた藤咲は長山の兄に父親との関係を見ていた事を勘づかれて脅迫紛いのセクハラにあっていた。
しかし、そんな隠し事は長く続くわけもなく自身の異変に母親が気づいて隠しておくことが出来ずに父親と先輩のお兄さんの関係を藤咲の口からバラした。
離婚して母親に引き取られ、母親の実家である渉太の地元越してきたが、藤咲のピアノの才能に執着していた母親は藤咲のことを祖母に任せて放ったらかしにしては藤咲の為だと夜の仕事をしては男を転々として援助してもらって今の自分があること。
過去の出来事から自分に寄ってくる男が不愉快で、触れられるのは悪寒がするほど嫌だった。なのに誑かしていたのは、幼少期の時に何も出来なかった自分への憂さ晴らしをするためだったと全て話してくれた。
「自分の感情で僕は沢山傷つけてきた。好きだって言われて曖昧な態度をとっといて、相手が恋に溺れてきたと思ったら相手に触れられる前に突き放す」
藤咲は眉を下げては鼻で笑うようにしていたのにも拘わらず、自然と嫌な気持ちにならなかったのは、俺や藤咲に関わってきた奴らにじゃなくて藤咲自身に笑っているように見えたからだ。
「渉太が僕のことが好きだったのは最初から気づいてたよ。きっかけさえ与えればこういうやつは本性表して僕のことを食い物にするとさえ思ってた」
藤咲は窓の外から俺の方に顔を向けて、何一つ変えない表情で俺を見据えてきた。
少し釣り上がりのあるその双眸と目を合わせながら告げられる、あの時のこと。
正直、藤咲への好意をそう思われていたことがショックだったけど、過去の話を聞いた後だけに咎める気にはならなかった。
「けど僕からキスしてみても渉太が告白をしてきても君はずっと俺の側にいるだけで何ももしてこなかったから驚いてたんだ。今までの奴は、キスした途端迫って来るやつが多かったから……」
藤咲のことを一丁前に好意を寄せていたくせに当時の自分は藤咲に迫れるほどの自信がなかった。相手の気持ちを気にして聞くことも出来ず、行動にすらできなかった臆病者。
自然と強く握りしめる拳に食いしばる奥歯。
例え事実が自分の傷を深めることだとしても藤咲が真剣に話してくれている。受け止めなきゃいけない。
渉太は藤咲の話すことひとつひとつに対しての感情を抑えるのに自然と力が入っていた。
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