憧れはすぐ側に

なめめ

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弾けない理由

26-1

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秋も終わりが近いコンサート当日。渉太は言われた通りに大樹先輩を誘って一緒に関係者席で律仁さんの姿を観ることになった。

開演から数時間前。
ドーム規模の会場で何万人もの人達がアイドル浅倉律を見に来る。いつもの身近に感じているもののこうやって律目当ての沢山のファンを見ているとやっぱり自分と付き合っているのは別人なんじゃないかと錯覚する。

中には藤咲目当ての子も居るのか気品が高そうな女の子が親子連れで見受けられた。
本人に言ったらガンを飛ばされそうだけど、アイドルに負けてない。

「すみません、先輩。こんなことに付き合わせてしまって…」

渉太は長蛇の列の中、一緒に付き合ってもらっている先輩に深々と頭を下げた。
グッズを買うか買わないか迷ったが、渉太にとっては初めてのコンサート。迷った末にやはり買うこと決めて、待ち時間1時間弱。

律仁さんに言えば、タダでも貰えるような気がするが、やっぱりファンである以上自分のお金を払って手に入れたかった。

グッズのデザインは律が考えたものだし、尚更。普段着ていけるようなお洒落なTシャツとかトートバッグとか律仁さんのセンスは流石だと思う。

あまりにも胸が騒ぎすぎて、図々しくも大樹先輩に付き合わせてしまってるなんて……浮かれ気分とは怖いものだ。おまけに気遣って飲み物を買ってきてくれるのだから頭が上がらない。

「渉太が楽しそうなの見てて面白いよ。下手したら天体見る時よりも楽しそうなんじゃないか?」

大樹先輩に温かい缶コーヒーを手渡されては、少し手が悴んでいたので、温むように両手を擦らせる。

「そ、そんなことはないですっ。天体は天体で静かにぼーっと見上げてる時間は何にも変えられないくらい特別だから……」

「そうだな。でも、今の渉太。律仁が見たら喜ぶよ」

いくら天体の魅力を必死に力説しても自分の律好きなことには上回らないと見破られてしまったのか、何も問わずに微笑みかけられてしまう。そうじゃないと否定したら嘘になるので、反論することもできずに、ここは黙って頷くしかなかった。

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