憧れはすぐ側に

なめめ

文字の大きさ
上 下
179 / 243
初めての撮影現場

25-3

しおりを挟む
「渉太のそういう控えめなところ好きだけど、俺としては渉太にはちゃんと勇姿を見届けてほしいなー……?」
「……」

笑顔の次は畳み掛けるように目の前に立ち止まってくると自分の顔を覗き込んできては、強請るような目で此方を見てくる。

薄暗くても公園の街灯で微かに見える表情。
こんな律仁さんのコロコロと変わる表情は反則級で、世の中の女性はこんな顔で律に見つめられたら頷かずには居られないんだろうなと思う。

だけど、律のコンサートは争奪戦だし、幾ら自分で抽選をかけるからと言って取れるとは限らない。だからこそ自分は恋人の権利を使う事に躊躇いを感じては渉太は素直に頷けずにいた。

「じゃあさ、こう考えてみて?渉太が抽選かけないことで俺のファンの子が行ける確率は少しでも上がるし、渉太分の席に他の子が入れる。渉太はただ、行きたいか行きたくないかで考えてみて?」

眼鏡の奥からの真剣な眼差し。
律仁さんと付き合って自分に正直になると決めた。だから今までのように、でも…とかだけど…とか言っていちゃいけない。

「……行きたいです。律が生で歌ってる姿見たことないからっ……」

律仁さんに「正直でよろしい」と目線が合わさったまま笑顔で頭をぽんっと叩かれて胸がキュッとなった。

こんな公の場なのに律仁さんとキスをしたいと思ってしまった自分の衝動を抑える様に、渉太はショルダーバッグの紐を握って俯いていると律仁さん先を進んでは思い立ったように振り返った。

「大樹も呼んどくから大樹とおいで。あいつもう一般人だから。それなら渉太も気兼ねないでしょ?」
「ありがとうございます」

頷いたものの自分一人だったら気負いすると察した律仁さんは大樹先輩も呼ぶと気を効かせてくれたことに少し胸を撫で下ろした。

渉太は深々と頭を下げては、律仁さんの元まで駆け足で向かうと、再び並んで歩き出す。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

処理中です...