憧れはすぐ側に

なめめ

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藤咲尚弥のこと

24-6

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大樹先輩の話から、藤咲は幼少期から隣の県の神奈川住みで渉太の地元の高校に通っていたんだと判った。

特に自分が通っていた場所は名門高校でもなかったし、地方だったことからなんでまたそんな離れたところから……なんて思いながらも……話は続けられる。

藤咲の家もまた裕福な家庭で父親はそこそこ名の知れた指揮者だった。先輩の父親はそこでオーケストラの一員だった関連で両家同士の仲が良くなり、藤咲は8歳の時から大樹先輩の7個上のお兄さんにピアノを教わっていたのだという。

お兄さんは人を惹きつける魅力ある演奏は出来なかったが、それなりに指導力はあるし絶対音感を持っていた。性格も真面目で、藤咲家からも信頼が篤かった。

先輩も何度か兄について藤咲家に遊び行っていた事があったらしい。

ただ藤咲が小学校卒業を迎える頃、先輩のお兄さんと藤咲の父親が、行き来する間に愛人のような深い関係になってしまっていたのが尚弥を経由して藤咲の母親にバレて、お兄さんだけではなく長山家は藤咲家に縁を切られて出禁になったのだとか……。

多分俺が出会ったのは大樹先輩が話してくれた後の藤咲だ。そんなことが過去にあったなんて全く知らなかった。

決して裕福だからっと言って平穏な暮らしをしていたのかと思えば、真逆な先輩と藤咲の複雑な家庭の事情を聞かされて渉太は言葉を失う。

「俺は藤咲とは昔、デビュー前の14まで少しだけ遊んでた中だったからさ、久々に見掛けて声掛けてみたら、案の定この嫌われようだよ。きっと、別に用事があったんだろうけど……」

大樹先輩は眉を下げて、何処か寂しそうに笑った。 

大学構内にいた目的が先輩ではなかったと聞き、もしかして昨日の今日から俺に会いに来た……?なんて考えるが、そんな自意識過剰な都合のいい話なんてない。

先輩が藤咲に冷たくされていたように、自分だって藤咲に嫌われているのだから……。
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