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ピアノの戦慄
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律仁さんと途中の通路で別れて、スーツの男性の後についていくと、座席まで案内された。別れ際、律仁さんが向かいから鉢合わせた別のスーツの男性に楽屋を案内されているのを目にする。
二人でいる時は、今隣にいる人が芸能人だなんて意識は頭の隅にある程度だったが、こうやって関係者の人とやり取りしている姿を見ると、律仁さんもその業界の人なんだと実感した。
1階の一番後ろの座席だった。
多分一般の座席で前方には鑑賞に来ている一般のマダム達が所々に座っている。てっきりよく耳にする関係者席に案内されるかと思っていたから身構えいただけに拍子抜けした。
もしかして俺は一般人だから、律仁さんだけ……?
有り得ることだけに、自分の身分を考えたら当然のことだが、少し気持ちが萎んだ。
どちらにせよ関係者席の方に律仁さんと居たって自分は肩身が狭くなるだけだから良かったと言えば、そうでもあるんだけど……。
そんな気持ちを萎ませながら、徐々に埋まっていく座席をただただ眺めては、腕時計で時刻を確認すると13時55分。
14時開演と表看板に書いていた気がしたからもうそろそろ始まる気配が会場内の所々に点在し始めたスタッフを見て感じる。
「渉太、お待たせ」
てっきり関係者の座席にいると思ってた人物の声が聴こえてきて顔を上げると、律仁さんが隣にきていて渉太は鳩が豆鉄砲を食らったように口をあんぐりとさせた。
「律仁さんっ!?」
渉太は咄嗟に辺りを見渡しては、周りの反応を確認する。ひそひそとする人は見えないし、バレてはいないみたいだが、妙な緊張感を覚えていた。
「関係者用の座席に行かなくていいんですか?」
「大丈夫。目立つことしなければ、ここじゃそんな騒ぎにはならないから」
あくまで帽子と眼鏡は外さずに堂々と前を見据えている。
幸い、律仁さんと俺がいる席の列には人が居ないようだったからまだ安心感はあった。
「でも、演者の方に知り合いがいるなら尚更、律仁さんだけでも関係者の席にいかせてもらえたんじゃないですか?」
「んー知り合いというか、これから仕事で関わる人なだけだから。どうせなら渉太と鑑賞したかったからさ、関係者席だと渉太が気にするでしょ?関係者入口に入るだけでガチガチだったし」
律仁さんは自分のことをよく見ている。
自身のことは二の次で、渉太の気持ちを優先してくれていた。一瞬でも、席が別々だと勝手に思い込んで凹んでいたのが情けなく思えた。
多少のリスクを背負ってでも、一緒にいることを選んでくれる律仁さんに自分はなんて贅沢ものなのだろうかと思い知らされる。
「今挨拶してきた子ね、もちろん本格的にも凄いんだけど、動画で俺のソロデビューの曲をピアノアレンジして弾いてくれてたりしてさ。感動したんだよね、それ見て一緒に仕事したいなーって思ったの」
律仁さんが嬉しそうに話す姿を見て、渉太も同慶していた。ソロデビューの曲は自分にとっても大好きな曲だから、それくらい律仁さんにとっても大切な曲に思っていることが素直に嬉しい。
それに、律の曲をアレンジして弾いているなんて、その人も律が好きなんだろうか。
じゃないと弾こうなんて思はないよな……。
どんな人だろうか、公演が終わったらネットで検索してみようか。
律仁さんが感動するくらいの人だから、今からその人の演奏を聴けると思うと渉太の胸は踊っていた。
「多分2番目に出てくると思うんだけどさ、ふじ……」
律仁さんが話している途中で開演を告げるブザーが鳴り、客席が一瞬にして薄暗くなる。
律仁さんは「この続きはあとでね」と言っては向き直ると、渉太も続いて目線をステージに向けた。
二人でいる時は、今隣にいる人が芸能人だなんて意識は頭の隅にある程度だったが、こうやって関係者の人とやり取りしている姿を見ると、律仁さんもその業界の人なんだと実感した。
1階の一番後ろの座席だった。
多分一般の座席で前方には鑑賞に来ている一般のマダム達が所々に座っている。てっきりよく耳にする関係者席に案内されるかと思っていたから身構えいただけに拍子抜けした。
もしかして俺は一般人だから、律仁さんだけ……?
有り得ることだけに、自分の身分を考えたら当然のことだが、少し気持ちが萎んだ。
どちらにせよ関係者席の方に律仁さんと居たって自分は肩身が狭くなるだけだから良かったと言えば、そうでもあるんだけど……。
そんな気持ちを萎ませながら、徐々に埋まっていく座席をただただ眺めては、腕時計で時刻を確認すると13時55分。
14時開演と表看板に書いていた気がしたからもうそろそろ始まる気配が会場内の所々に点在し始めたスタッフを見て感じる。
「渉太、お待たせ」
てっきり関係者の座席にいると思ってた人物の声が聴こえてきて顔を上げると、律仁さんが隣にきていて渉太は鳩が豆鉄砲を食らったように口をあんぐりとさせた。
「律仁さんっ!?」
渉太は咄嗟に辺りを見渡しては、周りの反応を確認する。ひそひそとする人は見えないし、バレてはいないみたいだが、妙な緊張感を覚えていた。
「関係者用の座席に行かなくていいんですか?」
「大丈夫。目立つことしなければ、ここじゃそんな騒ぎにはならないから」
あくまで帽子と眼鏡は外さずに堂々と前を見据えている。
幸い、律仁さんと俺がいる席の列には人が居ないようだったからまだ安心感はあった。
「でも、演者の方に知り合いがいるなら尚更、律仁さんだけでも関係者の席にいかせてもらえたんじゃないですか?」
「んー知り合いというか、これから仕事で関わる人なだけだから。どうせなら渉太と鑑賞したかったからさ、関係者席だと渉太が気にするでしょ?関係者入口に入るだけでガチガチだったし」
律仁さんは自分のことをよく見ている。
自身のことは二の次で、渉太の気持ちを優先してくれていた。一瞬でも、席が別々だと勝手に思い込んで凹んでいたのが情けなく思えた。
多少のリスクを背負ってでも、一緒にいることを選んでくれる律仁さんに自分はなんて贅沢ものなのだろうかと思い知らされる。
「今挨拶してきた子ね、もちろん本格的にも凄いんだけど、動画で俺のソロデビューの曲をピアノアレンジして弾いてくれてたりしてさ。感動したんだよね、それ見て一緒に仕事したいなーって思ったの」
律仁さんが嬉しそうに話す姿を見て、渉太も同慶していた。ソロデビューの曲は自分にとっても大好きな曲だから、それくらい律仁さんにとっても大切な曲に思っていることが素直に嬉しい。
それに、律の曲をアレンジして弾いているなんて、その人も律が好きなんだろうか。
じゃないと弾こうなんて思はないよな……。
どんな人だろうか、公演が終わったらネットで検索してみようか。
律仁さんが感動するくらいの人だから、今からその人の演奏を聴けると思うと渉太の胸は踊っていた。
「多分2番目に出てくると思うんだけどさ、ふじ……」
律仁さんが話している途中で開演を告げるブザーが鳴り、客席が一瞬にして薄暗くなる。
律仁さんは「この続きはあとでね」と言っては向き直ると、渉太も続いて目線をステージに向けた。
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