憧れはすぐ側に

なめめ

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憧れはすぐそばで

20-2

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間仕切りの入口に立っている係員の人に「どうぞー」と案内されては中へと入っていく。入った途端、笑顔で手を振ってきた律だが、一瞬だけ瞳孔が開いて驚いていたのが分かった。

目の前にいるのは紛れもなく律だ。
新曲のジャケット写真の白いジャケット衣装で髪の毛もセットされていて本当に近くで見るには眩しい存在。

「今日は来てくれてありがとうね」と一言添えられ差し出された手に触れると暖かくてドキドキする。ギュと握りしめてみると返してくれた気がして嬉しかった。

だけど、向けられる笑顔は自然なものではなくアイドルとしてのもの。今、律仁さんは自分を見てどう思ってくれているのだろうか……。

この場はきっと律仁さん自身じゃなくて律を演じてる。

「律仁さん。今日、アトリエで待ってます」

握手の時間があまりないのは分かっていた。渉太は律仁さんの返事など訊く余裕もなく、スタッフさんに強引に流されるように引き剥がされてブースを出される。

ほんの数秒のことで本人にちゃんと伝わったかは分からないけど、行動に起こさないと後悔しそうだったから……。

それが午前中からお昼に掛けての話で、今は律仁さんに伝えた通りに待っていた。

律であるという、建前があるから会ってくれないかもしれない……。
それ以前に律仁さんは、もう自分のこと想ってくれていないかもしれない……。

期待と不安で落ち着かなくて、無闇矢鱈に珈琲に口をつけて飲むを繰り返していた。

「誰か待ってるのかい?」

急に背後から話しかけられて身体がビクリと震える。声の方へと振り返ると、すぐ斜め後ろに店の店主が突っ立っていた。
相変わらずの優しく垂れ下がった目に寛大そうな雰囲気を漂わせる。

「はい…」と小さく返すと「そうか……」と言って深く顎髭を触りながら頷いていた。

「いやー君がこないだ律仁と来た時も、あいつ、君が来るまでずっと落ち着かない様子だったのがちょっと似ていてね」

店主のおじさんに言われてハッと気がつく。
そういえば、律仁さんと別れた時も似たような場面だったっけ……。

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