憧れはすぐ側に

なめめ

文字の大きさ
上 下
101 / 243
先輩と律仁さん

16-1

しおりを挟む
大樹先輩を見失わないように背中を追い、ひたすらについて行く。
しばらく構内を彷徨う。講義室の目の前で足を止めて鍵を取り出し扉を開けては、中へと促された。
先輩も後を追って室内へ入ってくるとそそくさと鍵を閉め、深いため息を吐いた。

少し狭めの講義室。
渉太は先輩が鍵を持っていることに疑問げに首を傾げてみせると、大樹先輩は「優等生の特権?サークルで使いたいって言ったら貸してくれてさ」と鍵をチャラチャラと手の中で揺らして見せびらかしてきた。

先輩は頭も良くて先生にも好かれて信頼も厚いみたいだし、構内活動も積極的に取り組んでいる。絵に書いたような優等生でそれでいて優しくて、本当に文句なしな人。

先輩は堂々と室内に入っては前から真ん中辺りの長い机の椅子に座ると隣へ来るように促してきた。
渉太も誰もいない講義室に躊躇いながらも、
先輩の隣まで行き、一席分間隔を空けて座る。

「渉太、急にごめんな。びっくりしただろ?」

びっくりしたとは何を意味してることなのか、主語が無くても理解できた。
この流れからじゃ、一つしかない……。

「いいえ、俺も大樹先輩に訊きたいことがあったので……」

「そうだな。サークルの子達には適当にはぐらかして知らないフリしてやり過ごしたけど、渉太にはちゃんと話してやらないといけない」

机上で両手指を組んで真剣な表情をして一点を見つめている。

あんなに律仁さんのことをよく知っているような素振りだった先輩が彼の事を何も知らないわけはないとは思っていたが、渉太の勘は間違っていないようだった。

大樹先輩は律仁さんのことで何か知ってる……きっと、あの記事についても。

「……俺、さっき知ったばかりで情報が整理出来てないです。でも、皆が言ってた週刊誌のって……」

「半分嘘で半分本当ってとこだな」

こういう記事は嘘も多いってよく耳にする。
記者、または告発者のでっち上げということも有り得る。じゃなきゃ、律が……律仁さんが…先輩の彼女を奪ったことになるから……。

「そうだな…渉太には何から説明しようか。
ちょっと長くなるけど大丈夫か?」

渉太は深く頷いては膝の上で両拳を強く握った。この先の話はきっといい話ではないのは大樹先輩の雰囲気から読み取れる。

何となく今から言われてることに予想はついるし、聞くのが怖い。
だけど聞かずにはいられない。
事実を知らずして見て見ぬふりなんて自分にはとても出来るわけがないから……。
渉太は雰囲気に呑まれるように全身が緊張で硬直していた。

「まず、あの記事を見ての通り渉太の知ってる麻倉律仁はあの有名な浅倉律で間違いはないよ」

半分事実と半分虚偽の事実の方の話。そして、その事実が自分が望んでいないものであることも。訊きたかったけど一番聴きたくなかったこと。

薄々気がついてはそんなことはない。
そうであってほしくないと願っていたことが現実となって叩きつけられる。
律仁さんと話したり、触れ合ったのはあれは全部、俺自身が憧れていた律だったのだと思うと全身が震えた。

嬉しさからじゃなくて、とんでもない罪を犯してしまったようなそんな感覚だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...