憧れはすぐ側に

なめめ

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忘れもの

6-5

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「俺の事、そんなに揶揄って楽しいですか?」

渉太は目の前の雑誌を律仁さんの方へと押し返した。正直、自分のものなら律の雑誌なら何冊あってもいいがこの人の条件は飲めないし、借りを作って出汁にされるのも嫌だった。

「えっ·····」

 この人といたら、振り回されてばっかりで
今まで静かに過ごせていた日常が壊れていく気がした。

「雑誌は要らないです。俺あの後買い直しましたし。告白だって冗談なんですよね?」

渉太は憤りに任せて席を立ち上がる。
鞄を肩に提げその場から立ち去ろうとしたとき手首をグイッと引き寄せられた。
意外と力強く引っ張られたので、よろけては律仁さんの顔の目の前の寸前のところで止まる。

突然の至近距離に渉太は身体を仰け反らせるが、それに対して律仁さんが逃がさないと言わんばかりに手首を掴んでくるので引力と抵抗力の攻防が始まる。

「待って、渉太くん。話を聞いてほしい」

このまま両者一歩も引かずに繰り返していても埒があかないと悟った渉太は大人しく抵抗するのを止めた。
渉太が逃げないと分かった律仁さんは掴んでいた手を離す。

「人のものを勝手に盗るのは申し訳なかったよ。だけど俺、あの後申し訳無いことしたなって思って。鞄からたまたま雑誌が見えたから律が好きなんだって気づいたから·····」

律仁さんはテーブルの上の雑誌を手に取ると中を開いて渉太に向ける。

「え·····本物?」

それを見た途端に、自分の目を疑うようにして律仁さんと雑誌をと交互に見た。
雑誌の律の最後のページの黒いワイシャツの胸元を微かに抱けさせては椅子に座り、色っぽい目をした律の写真にサインが書かれてあった。しかも、丁寧に「渉太くんへ」と書かれているので完全に自分宛。

「俺、芸能界に知り合いがいてさ、特別に貰ってきたんだよ。付き合うとかはなしにしてさ、渉太くんに受け取って貰えないかな·····?」

律仁さんは只者ではないとは感じていたが、芸能界に知り合いがいるって·····矢張りお金持ちの坊ちゃんとかなのだろか。

律が自分の名前を書いてくれた嬉しさと余計に謎が深まる律仁さんの素性。

「大樹のこともあるし、無理に付き合ってとは言わないよ。でも俺が渉太くんに冗談で告白したわけじゃないのは信じてほしい」

律仁さんの真剣な目。
眼鏡の奥の瞳は何処か雑誌の律に似ていて惹き込まれてしまいそうになる。
渉太はそんな律仁さんの目に拒否する気が起きずに大人しく雑誌を受け取った。
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