これが恋だとしても·····

なめめ

文字の大きさ
上 下
235 / 242
大樹の所在

大樹の所在⑯

しおりを挟む
これから浅倉さんが口にするであろう言葉が怖い。一生隠すつもりは無かったが、好きな人には知られたくないもうひとつの僕の過去。
だけど渉太と僕の関係を語る上で隠してはおけない過去。

大樹が知ったら幻滅するだろうか·····。
穢らわしいと罵られた発言が、あながち間違いではないことに·····。
可愛がっている後輩を傷つけたのが自分であることに。

 「尚弥くん、俺は優しくないから君の綺麗な部分だけ切り取るつもりなんかない。
大樹が大切な存在なら尚更、このことに関しては話すべきだと僕は思うよ。俺も渉太から詳しく聞いた訳じゃないけど、過去に君が人を傷つけたことには変わりないから」

尚弥は静かに頷き「分かった。僕から話す……」と緊張で唇を震わせながら、真剣な表情で此方を見てくる大樹の目を見て話す。

僕と渉太が恋仲で渉太の本気の告白を親身に受け取らなかったこと、それどころか嘲笑い、クラスの奴らに彼の性癖を敢えてアウティングするような真似をして日本から逃げたことを……

そして浅倉さんから本人から聞かされていなかったその後の彼の話を聞かされた。

尚弥が留学した後、渉太はクラスのから浮いた存在になった。一時的に学校に通う事ができなくなった彼は、通信に転校し高校生活を終えたことを聞いていて胸が痛んだ。

僕は一度しかない大切な渉太の青春を奪ってしまっていた。

渉太本人は「気にしないで、俺も悪いから」と寛大に許してくれたことに僕は甘えていたのかもしれない。第三者から改めて聞かされて、己の渉太に対してしたことへの重さを痛感した。

彼が学校のトイレの地べたで泣き崩れて嗚咽を漏らしていた姿を数年経っても忘れない·····忘れちゃいけなかったのに·····。

「すまない、それには俺にも非があるんだ。藤咲をこんなに追い込んだのは俺の責任でもあるから·····だから藤咲ばかりを責めないで欲しい。渉太には俺から謝るから」

浅倉さんが話し終えた後、黙って聞いていた大樹の第一声に尚弥は思わず俯いていた顔を上げた。てっきり最悪な人間だと幻滅されるものだと思っていた。

約束した通り、自分を見捨てるような発言をしなかったことが嬉しい反面、大樹にも責任を負わせてしまったのだと負い目を感じた。

「あんたが責任なんか感じる必要はない。僕が·····ちゃんと自分のことなのに折り合いを付けずに逃げてきたから、渉太のことを誰よりも大切に想ってる浅倉さんに恨まれて当然だと思う·····僕自身も許してくれる渉太に甘えていた部分もあるから·····」

渉太だけじゃない、僕は沢山の人の心を傷つけてきた。それはトラウマを理由に正当化していいわけじゃないと自覚している。顔は思い出せないけど、中には本気で自分に言い寄ってきているものをいた。

そんな彼らの気持ちを僕は踏みにじったんだ·····。全て許されたように錯覚しちゃいけなかったのに·····。

「俺は尚弥くんにも大樹にも渉太に謝って欲しいからこの話をしたわけじゃないよ」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

闇に咲く花~王を愛した少年~

めぐみ
BL
―暗闇に咲き誇る花となり、その美しき毒で若き王を  虜にするのだ-   国を揺るがす恐ろしき陰謀の幕が今、あがろうとしている。 都漢陽の色町には大見世、小見世、様々な遊廓がひしめいている。 その中で中規模どころの見世翠月楼は客筋もよく美女揃いで知られて いるが、実は彼女たちは、どこまでも女にしか見えない男である。  しかし、翠月楼が男娼を置いているというのはあくまでも噂にすぎず、男色趣味のある貴族や豪商が衆道を隠すためには良い隠れ蓑であり恰好の遊び場所となっている。  翠月楼の女将秘蔵っ子翠玉もまた美少女にしか見えない美少年だ。  ある夜、翠月楼の二階の奥まった室で、翠玉は初めて客を迎えた。  翠月を水揚げするために訪れたとばかり思いきや、彼は翠玉に恐ろしい企みを持ちかける-。  はるかな朝鮮王朝時代の韓国を舞台にくりひげられる少年の純愛物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...