これが恋だとしても·····

なめめ

文字の大きさ
上 下
223 / 242
大樹の所在

大樹の所在④

しおりを挟む
尚弥の考えも虚しく、麗子の言葉の攻撃は止まず、そんな中で浴びせられた「穢らわしい」は大樹に触れられ、想いの丈を告げられた今でも完全に消えたわけではなかった。

大樹の温度を感じているときは、心を鎮めることができても、一人のふとした時に重なる父親のあられもない姿と自分の大樹を求める姿に喚きたくなるほど呼吸や胸が苦しくなる。

そんな時は大樹との連弾のことや、仕事のことを考えて乗り切っていた。

正直、大樹の母親の話は得意ではない。
尚弥は言葉を濁して、愛想程度に筒尾に笑いかけるとテーブルの下で両手指を組む。

目の前の男と大して話す話題もなく、かと言ってあからさまに席を立つのも如何なものかと思い、帰るタイミングを図りながらステージ上に目線を移す。差程興味のない女性のヴァイオリンに耳を傾けていると「大樹くん」と筒尾から発せられた好きな人の名前に思わず振り返った。

「今日はいないよ。彼」

不意打ちの問いに目を瞠る。
さも尚弥が大樹の事を待ち望んでいるかと詠まれたような物言い。

「藤咲くんっていつも大樹くん目当てで来てるでしょ?」

男の言葉に意識を集中させると、案の定、
筒尾には僕が此処にきた目的を見透かされているようだった。確かに尚弥がこのお店に足を運ぶときは決まって大樹がいる時なので、店主であれば勘ぐるのも当然。

ましてや僕はこの業界では有名人と言っても過言ではないことは自覚している。店でも観客としてひっそり座っていても多少、目立っていたのは自覚していた。

だからこそ、図星を当てられて気恥しさを感じる。

「別に目当てって訳じゃないですけど·····長山大樹とは幼い頃からの顔見知りで·····。それで彼は何で休みなんですか?」

筒尾の問いに肯定するのも胸の擽ったさを覚えて、やんわりと否定をすると彼がこの場にいない理由を問うた。途端に筒尾は顔を顰めて心做しか何か言いずらそうに顎を摩る。

「あー·····大樹くん休みじゃなくてね·····此処、辞めたんだよ」
「え·····」

辞めた·····?何で·····?

唯一彼と音楽を通じて触れ合うことが出来ていた場所。言わば尚弥にとっては自ら大樹に会いに行く口実となる場所だった。

一松の不安が過ぎり、胸が騒ぎだす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...