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藤咲のためなら

藤咲のためなら③

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調子に乗ってふざけ倒して右手を差し出してみると藤咲は眉を顰めて「は?げ、下僕ってなんだよ。気持ち悪っ」と身体を反らせる。
会う度に藤咲に触れる回数は徐々にではあるが増やしていた。勿論自分が触れたいからという理由も無きにしも非ずだが、藤咲に触れることに関して慣れてもらう為でもあった。
 
後輩に読む必要はないと言われていたが、大樹なりに浅くではあるが、参考がてら藤咲と同じ症状で悩んでる人のSNSだったり、本から得た情報で何か対策はないかと、本人の協力のもと触れることに慣れさせ、恐怖心を徐々に無くしていくことから始めることにした。

そのおふざけも、なるべく雰囲気を和らげ藤咲の緊張を解せればと思っていたが、やはりそう簡単にはいかないのか、かなり身構えているようだった。大樹の掌を凝視して、表情を歪ませたては一息つくと左手を伸ばしてきたが、大樹は何処か違和感を感じ、手を引っこめる。

「下僕はいいとして、手袋、脱いでくれるとありがたいんだが?」

「·····嫌だ」

「じゃあ、今日はやめるか?」

首を左右に振って「今日は手袋で勘弁してほしい·····」と勢いの失くした声に、何かを藤咲が隠しているような気がし、大樹は左手首を掴んで手袋を脱がすと全指の所々に切れたような傷が広がっていた。

念の為、右手も掴んで強引に脱がせると痛ましい程同様のあかぎれの跡が広がっている。藤咲は手を思い切り振り払うと気まずそうに俯いた。

数週間前の天体観測のときは勿論まっさらで綺麗な指のまま傷ひとつなかったし、なんなら数日前は指の関節にあったもののここまで傷は広がっていなかった。

確かに、大樹と車まで我慢をして手を繋いだ後、必要以上に除菌シートで手を拭いていたのは知っていたが、無知だった俺は藤咲のその行動について深く気に留めてはいなかった。しかし、後日傷を見つけて、直ぐに調べた情報では恐怖心や不安が強くなると、逃避行動から手を洗わずには居られなくなる傾向もみられると書いてあった。

もしかして俺が好意を告げたから藤咲の不安を増幅させてしまったのかと頭を過ぎらせたが、後悔したところで起こってしまったことを悩んでいるわけにいかない。其れよりもこうなってしまった藤咲のことを理解することが優先だった。

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