109 / 242
聴かせる音色
聴かせる音色⑧
しおりを挟む
「すまない。お前が怖がることしたよな。だけど、俺は藤咲を裏切った訳じゃないし、この先も裏切るつもりはない。だけど、俺自身も兄の事を理解したかったんだ。あんなんでも唯一の兄弟だから·····。それに、その事でお前が苦しそうにピアノに触る姿は見たくない。藤咲を救えなかった分、今の俺に出来ることは最善を尽くすから·······藤咲が笑って弾けるように手伝わせてほしい·····」
大樹は藤咲の目線と合うように少し屈んでは、膝に手をつき、ヒクヒクと未だに引き攣らせながら泣く藤咲をじっと見据えた。
普段は凛としているのに目の前の弱々しい藤咲をみていると庇護欲を掻き立てた。
ちゃんとご飯は食べているのかと問いたくなるほどの細い身体、手袋越しからでも分かる長い指、泣き腫らした顔、全て抱きしめて俺が守ってやりたい·····。
「僕は·····あんたに触れても平気なくらいになりたい·····」
藤咲のか細い声に、触れるという単語にドクリと胸が波打つ。大樹は深く息を整えては「分かった」と小さく返事をした。
-------------------------------------------
「おっ。大樹くん、おかえり」
あの後、藤咲を駅まで見送って店まで戻ってきた。店内はサックス奏者の演奏は終わっていたものの座席で飲食しているお客は先程よりは減っていたが、ポツポツといた。帰るなり筒尾に頭を下げて「すみません」と預けていたヴァイオリンを受け取る。
藤咲のお代を払おうと財布を取り出すと「いいよ、いいよ。彼珈琲一杯しか飲んでないし。友達大丈夫そうだった?」と逆に心配されてしまい、「なんとか·····」と曖昧に濁してやり過ごした。
自分も今日はこの辺でお暇しようと挨拶をした時に「あ、これも」と言って筒尾に小さくて茶色い有名チョコレート菓子店のロゴが入った紙袋を差し出された。大樹は首を傾げながらも渡された紙袋を受け取る。
「藤咲くんの座ってた席に置き忘れてたみたいでさ、彼の忘れ物じゃないかな?大樹くん仲良いんだろ?彼に返しといてくれるかい?やっぱり彼もモテモテなんだねー」
藤咲の忘れ物·····。
紙袋を覗くと綺麗に淡いピンクの包装紙に赤色の透明なラメ入りリボンが装飾された箱が見えた。明らにチョコレートや贈り物の類だと分かる。大樹はカウンター上に置かれた小ぶりの黒板に今日のおすすめカクテルと共に書かれた日付を見遣ると2月27日とバレンタインから大分過ぎていた。
まあ、バレンタインじゃなくても藤咲なら路上のピアノ演奏で数名のファンの子たちから
差し入れを貰っていたのを見たことがあっただけに、おかしくは無い。しかし、陽気に喋る筒尾の傍ら、大樹は心臓を引っ掻かれたような胸騒ぎをさせていた。藤咲に好意を抱いているものがいると思うと酷く気に食わないと思ってしまっている自分に動転する。
制御しようとしても心というものは正直で、
嫉妬して、藤咲が人に触れられるのが怖いと言っていたにも拘わらずに、引き留めたくて強引に抱き竦めてしまった大樹自身の独占的な欲。
藤咲に「あんたと触れても平気なくらいになりたい·····」と言われ、藤咲へ触れるという事が言葉で明確になった途端身体の熱が一気に上昇し、頭が揺れ、ふらつきそうになった。
あんなに気持ちを押し殺す思いでいても、藤咲を前にすると意図も簡単に崩れていくのが手に取るように分かる。
自分はちゃんと藤咲に節操のある頼れる人でいられるだろうか。認めざる負えない感情と遠ざけることのできないこの存在。大樹には理性を保てる自信がなかった。
大樹は藤咲の目線と合うように少し屈んでは、膝に手をつき、ヒクヒクと未だに引き攣らせながら泣く藤咲をじっと見据えた。
普段は凛としているのに目の前の弱々しい藤咲をみていると庇護欲を掻き立てた。
ちゃんとご飯は食べているのかと問いたくなるほどの細い身体、手袋越しからでも分かる長い指、泣き腫らした顔、全て抱きしめて俺が守ってやりたい·····。
「僕は·····あんたに触れても平気なくらいになりたい·····」
藤咲のか細い声に、触れるという単語にドクリと胸が波打つ。大樹は深く息を整えては「分かった」と小さく返事をした。
-------------------------------------------
「おっ。大樹くん、おかえり」
あの後、藤咲を駅まで見送って店まで戻ってきた。店内はサックス奏者の演奏は終わっていたものの座席で飲食しているお客は先程よりは減っていたが、ポツポツといた。帰るなり筒尾に頭を下げて「すみません」と預けていたヴァイオリンを受け取る。
藤咲のお代を払おうと財布を取り出すと「いいよ、いいよ。彼珈琲一杯しか飲んでないし。友達大丈夫そうだった?」と逆に心配されてしまい、「なんとか·····」と曖昧に濁してやり過ごした。
自分も今日はこの辺でお暇しようと挨拶をした時に「あ、これも」と言って筒尾に小さくて茶色い有名チョコレート菓子店のロゴが入った紙袋を差し出された。大樹は首を傾げながらも渡された紙袋を受け取る。
「藤咲くんの座ってた席に置き忘れてたみたいでさ、彼の忘れ物じゃないかな?大樹くん仲良いんだろ?彼に返しといてくれるかい?やっぱり彼もモテモテなんだねー」
藤咲の忘れ物·····。
紙袋を覗くと綺麗に淡いピンクの包装紙に赤色の透明なラメ入りリボンが装飾された箱が見えた。明らにチョコレートや贈り物の類だと分かる。大樹はカウンター上に置かれた小ぶりの黒板に今日のおすすめカクテルと共に書かれた日付を見遣ると2月27日とバレンタインから大分過ぎていた。
まあ、バレンタインじゃなくても藤咲なら路上のピアノ演奏で数名のファンの子たちから
差し入れを貰っていたのを見たことがあっただけに、おかしくは無い。しかし、陽気に喋る筒尾の傍ら、大樹は心臓を引っ掻かれたような胸騒ぎをさせていた。藤咲に好意を抱いているものがいると思うと酷く気に食わないと思ってしまっている自分に動転する。
制御しようとしても心というものは正直で、
嫉妬して、藤咲が人に触れられるのが怖いと言っていたにも拘わらずに、引き留めたくて強引に抱き竦めてしまった大樹自身の独占的な欲。
藤咲に「あんたと触れても平気なくらいになりたい·····」と言われ、藤咲へ触れるという事が言葉で明確になった途端身体の熱が一気に上昇し、頭が揺れ、ふらつきそうになった。
あんなに気持ちを押し殺す思いでいても、藤咲を前にすると意図も簡単に崩れていくのが手に取るように分かる。
自分はちゃんと藤咲に節操のある頼れる人でいられるだろうか。認めざる負えない感情と遠ざけることのできないこの存在。大樹には理性を保てる自信がなかった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる