106 / 242
聴かせる音色
聴かせる音色⑤
しおりを挟む
だから、藤咲の存在がヴァイオリンを弾く原動力になっている自覚があった。あれから練習していて思い出すのは、藤咲との一緒に弾いたあの楽しかった思い出ばかりで、彼にガッカリされたくないという気持ちがの方が大きかった。
結果は惨敗だったが、それが不思議と更にやる気に繋がる。
「親の言うことに逆らう勇気がなかったんだよ。でも、今日は藤咲に聴かせたいと思ったらヴァイオリンを自然と握ってた。緊張はしたけど、楽しかったよ」
「楽しそうに見えなかったけど」と先程散々ドヤされたことを蒸し返すように藤咲に皮肉られる。相変わらずの言葉のトゲトゲしさに辟易とするが徐々に慣れつつあった。
「あんたの親って怖いのか?昔·····勉強する代わりにアイドルやってるって言ってたから·····だから今も浅倉さんと交流あるんだろ」
「ああ·····怖いというか。うちは音楽で得た地位とか名誉にしか興味ない人間ばかりだから。父親はもう咎めなくなったけど、母親が辞めることは許されないって怒るんだよ。特に母親はヴァイオリン二ストだったし昔から俺に期待してたから。だからと言って、本気でやって音楽で結果を出せなかったら落ちこぼれの烙印が押される。·····宏明だってそういう愛情を受けてたから歪んだ方向にいってしまったんだよ·····」
自分の家庭のことを自嘲気味に話すと、宏明と名前を出した途端に鋭く睨まれる。藤咲にとって最も地雷を踏む話題であることは、承知の上だが、彼も宏明の呪縛から逃れられず苦しんでいる人間。宏明の真意を話すことで俺のように少しは気持ちの緩和をしてやれればと思っていた。
ちゃんと向き合わず兄の事を知ろうとするまで、俺は兄が怖かったままだったから·····。
「やっぱりあいつのこと許せないよな」
「許せるわけないだろっ。あんたは許したのかよ。あんだけ威勢よく怒鳴ってたくせにっ」
「許してはいないよ。だけど、分かったんだ。藤咲はこんなこと聞きたくもないかもしれないけど、宏明は純粋に光昭さんのことが好きだっただけなんだよ·····」
「好きだっただけなんて綺麗事言うな。やっぱりあんたはっ·····」
演奏中の周りを配慮しては大声を上げなかったものの藤咲が酷く憤慨しているのが一目瞭然で、一連の出来事を思い出したかのように藤咲は両腕を摩って身震いをする。先程まで桃色だった顔も一気に引いて、青ざめに変わった。
結果は惨敗だったが、それが不思議と更にやる気に繋がる。
「親の言うことに逆らう勇気がなかったんだよ。でも、今日は藤咲に聴かせたいと思ったらヴァイオリンを自然と握ってた。緊張はしたけど、楽しかったよ」
「楽しそうに見えなかったけど」と先程散々ドヤされたことを蒸し返すように藤咲に皮肉られる。相変わらずの言葉のトゲトゲしさに辟易とするが徐々に慣れつつあった。
「あんたの親って怖いのか?昔·····勉強する代わりにアイドルやってるって言ってたから·····だから今も浅倉さんと交流あるんだろ」
「ああ·····怖いというか。うちは音楽で得た地位とか名誉にしか興味ない人間ばかりだから。父親はもう咎めなくなったけど、母親が辞めることは許されないって怒るんだよ。特に母親はヴァイオリン二ストだったし昔から俺に期待してたから。だからと言って、本気でやって音楽で結果を出せなかったら落ちこぼれの烙印が押される。·····宏明だってそういう愛情を受けてたから歪んだ方向にいってしまったんだよ·····」
自分の家庭のことを自嘲気味に話すと、宏明と名前を出した途端に鋭く睨まれる。藤咲にとって最も地雷を踏む話題であることは、承知の上だが、彼も宏明の呪縛から逃れられず苦しんでいる人間。宏明の真意を話すことで俺のように少しは気持ちの緩和をしてやれればと思っていた。
ちゃんと向き合わず兄の事を知ろうとするまで、俺は兄が怖かったままだったから·····。
「やっぱりあいつのこと許せないよな」
「許せるわけないだろっ。あんたは許したのかよ。あんだけ威勢よく怒鳴ってたくせにっ」
「許してはいないよ。だけど、分かったんだ。藤咲はこんなこと聞きたくもないかもしれないけど、宏明は純粋に光昭さんのことが好きだっただけなんだよ·····」
「好きだっただけなんて綺麗事言うな。やっぱりあんたはっ·····」
演奏中の周りを配慮しては大声を上げなかったものの藤咲が酷く憤慨しているのが一目瞭然で、一連の出来事を思い出したかのように藤咲は両腕を摩って身震いをする。先程まで桃色だった顔も一気に引いて、青ざめに変わった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
公開凌辱される話まとめ
たみしげ
BL
BLすけべ小説です。
・性奴隷を飼う街
元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。
・玩具でアナルを焦らされる話
猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる