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守れるのなら……
守れるのなら……②
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藤咲は真っ先に伊川先生の元へと向かい、深々と頭を下げて挨拶をしているようだった。来ないと踏んでいたが、やはり有名音楽家ともなると仕事の建前上、藤咲でも無視は出来ないんだろう。
藤咲よりも遠く離れたテーブルで有名楽団のオーケストラでコントラバスをやっているという男と話しながらも意識は自然と其方に向く。
藤咲と話している伊川先生は大層上機嫌そうで、律仁との食事の席で作曲もしてると仄めかしていたことから、藤咲の目指す場所の人なのだろう、痛く可愛がられているようだった。
きっと藤咲は自分の姿を見たら、嫌悪感抱くだろう。大樹は藤咲の視界に入らぬように注意を払いながら、なるべく存在を気づかれない距離を保っていた。
誰と話していても親のことを話、話題がそれで持ちきりになるこの場が大樹にとっては息苦しい。そもそも、そういう世界か息苦しくて引退した大樹にとっては、俺は俺であって父親の息子、母親の息子と言う目で見られることに居心地が悪かった。
母親が望む行くという目標が達成されたのだから適当なところで切り上げて帰ることも出来る。
大樹が帰るタイミングを見張っていると、会場内に心地いいピアノの音色が流れ始めて、付近にいた人間の注目は、ひな壇横のグランドピアノへと集中していた。
弾いているのはもちろん藤咲で、藤咲の音を聞きながらワインを嗜むもの、険しい表情で見守るものと様々だった。
「藤咲さん前から手袋してるんでしたっけ」
「あーそう言えばイメージなかったよな。噂によると潔癖症が酷くなったとかそんなんだったとか聞いたけどな」
後ろで話している男女の声に耳を傾ける。
演奏者の手袋着用は爪を保護する為だとか手冷え防止の為だとか理由は様々で珍しくはない。しかし、多くは女性がしているイメージがあるし、こういう人前で演奏する時に着用するのはあまり見ない。
そう言えば路上でピアノを弾いていた時も差程気にならなかったが、黒い手袋をしていたっけ……あれは単なるそういう理由かと思ったが……。
大樹はただ穏やかな表情で弾いている藤咲の姿をぼんやりと眺めていた。すると、肩にドンっと重たい衝撃が走り、誰かとぶつかったと気づいた頃には相手はピアノの方へと一直線へ向かっていっていた。
その後ろ姿を見た瞬間に全身に鳥肌が立つほどの寒気がした。
自分が幼い頃から見てきた覚えのある姿。結われた髪を揺らしながら遠ざかる背中を大樹は無心で追いかける。人集りを掻き分けて進んだため、スムーズに追いつくことが叶わず、最前まで着いた頃には時はすでに遅かった。
宏明が演奏中の藤咲の元へと近づく。
それだけには留まらず、連弾をするように割って入って来ていたので、大樹はその瞬間、血の気が引いたと同時に藤咲も演奏しながら誰かが近づく気配に一瞬にして表情が強ばったのが窺えた。
藤咲よりも遠く離れたテーブルで有名楽団のオーケストラでコントラバスをやっているという男と話しながらも意識は自然と其方に向く。
藤咲と話している伊川先生は大層上機嫌そうで、律仁との食事の席で作曲もしてると仄めかしていたことから、藤咲の目指す場所の人なのだろう、痛く可愛がられているようだった。
きっと藤咲は自分の姿を見たら、嫌悪感抱くだろう。大樹は藤咲の視界に入らぬように注意を払いながら、なるべく存在を気づかれない距離を保っていた。
誰と話していても親のことを話、話題がそれで持ちきりになるこの場が大樹にとっては息苦しい。そもそも、そういう世界か息苦しくて引退した大樹にとっては、俺は俺であって父親の息子、母親の息子と言う目で見られることに居心地が悪かった。
母親が望む行くという目標が達成されたのだから適当なところで切り上げて帰ることも出来る。
大樹が帰るタイミングを見張っていると、会場内に心地いいピアノの音色が流れ始めて、付近にいた人間の注目は、ひな壇横のグランドピアノへと集中していた。
弾いているのはもちろん藤咲で、藤咲の音を聞きながらワインを嗜むもの、険しい表情で見守るものと様々だった。
「藤咲さん前から手袋してるんでしたっけ」
「あーそう言えばイメージなかったよな。噂によると潔癖症が酷くなったとかそんなんだったとか聞いたけどな」
後ろで話している男女の声に耳を傾ける。
演奏者の手袋着用は爪を保護する為だとか手冷え防止の為だとか理由は様々で珍しくはない。しかし、多くは女性がしているイメージがあるし、こういう人前で演奏する時に着用するのはあまり見ない。
そう言えば路上でピアノを弾いていた時も差程気にならなかったが、黒い手袋をしていたっけ……あれは単なるそういう理由かと思ったが……。
大樹はただ穏やかな表情で弾いている藤咲の姿をぼんやりと眺めていた。すると、肩にドンっと重たい衝撃が走り、誰かとぶつかったと気づいた頃には相手はピアノの方へと一直線へ向かっていっていた。
その後ろ姿を見た瞬間に全身に鳥肌が立つほどの寒気がした。
自分が幼い頃から見てきた覚えのある姿。結われた髪を揺らしながら遠ざかる背中を大樹は無心で追いかける。人集りを掻き分けて進んだため、スムーズに追いつくことが叶わず、最前まで着いた頃には時はすでに遅かった。
宏明が演奏中の藤咲の元へと近づく。
それだけには留まらず、連弾をするように割って入って来ていたので、大樹はその瞬間、血の気が引いたと同時に藤咲も演奏しながら誰かが近づく気配に一瞬にして表情が強ばったのが窺えた。
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