33 / 242
路上の彼
路上の彼⑤
しおりを挟む
ピアノの音色と人集りに引き寄せられるように近づくと、中心を囲うように緩やかな円を描いて多くの人が突っ立っている。皆の目線の先は中央のピアノと音を奏でている人物。
殆ど女性であることから、幸いにも律仁と並ぶくらいの身長がある大樹は人の頭と頭の間から覗きながらも、人物を目視することができた。
「先輩見えますか?」
「あぁ」
観覧客のために張られた、赤いパーテーションから少し離れた中央のグランドピアノで演奏していたのは、藤咲尚弥だった。世界に通用する程の腕前を持った彼がこんな所で、お金も取らず弾いていていいのだろうか。
驚きで言葉を失う。
手元の黒い手袋に違和感を感じたもののそれを上回るくらい身体を揺らして気持ちよさそうに弾いている藤咲を美しいと思った……。
クリスマスが近づいているからか、有名なクリスマスソング。周りを見渡せば目を瞑りながら藤咲が奏でる音に酔いしれている人、
手を繋いで聴いているカップル、様々な人達の心をも魅力していた。
一曲弾き終えると立ちまち拍手が鳴り響く。
藤咲の表情は終始柔らかくて、心からピアノを楽しんでいるようにも見える。
藤咲は暫く余韻に浸り、椅子から立ち上がると「ありがとうございました」と普段の冷たい彼からは想像できないほど、観覧客に対して礼儀正しくお辞儀をしていた。
彼のファンらしき若めのお姉様方からのプレゼントを貰う表情はアイドル顔負けの笑顔。
「先輩知ってましたか?尚弥、たまにストリートピアノやってるんです。動画とか上げたりしてて、それで律仁さんが動画を見つけてライブのゲストに呼んでいた経由があるんですけど」
「そうなのか、知らなかった……」
「先輩はどう見えましたか?尚弥のこと」
「どうって………」
藤咲はピアノに対して自分みたいに惰性でやっている訳じゃない、楽しそうで安心した。そして、弾き終えた後に見せた笑顔が昔の藤咲を思い起こさせて胸に湧き立つものを感じた。笑顔になれないのは俺の前だけで本人はちゃんと前を見据えて生きている。
それが少し寂しく感じたが、自分が口出し出来る立場ではない。
この距離で彼を遠くから見ている関係が、一番お互いの為のような気がした。
演奏は完全に終了したのか、周りに集まっていた人が徐々に捌けていき、それぞれの向かう場所へと散っていく。人が少なくなったのをいいことに渉太が「尚弥!!」と藤咲のことを呼びだしたので、大樹は慌ててアルバイトを口実にその場を去った。
殆ど女性であることから、幸いにも律仁と並ぶくらいの身長がある大樹は人の頭と頭の間から覗きながらも、人物を目視することができた。
「先輩見えますか?」
「あぁ」
観覧客のために張られた、赤いパーテーションから少し離れた中央のグランドピアノで演奏していたのは、藤咲尚弥だった。世界に通用する程の腕前を持った彼がこんな所で、お金も取らず弾いていていいのだろうか。
驚きで言葉を失う。
手元の黒い手袋に違和感を感じたもののそれを上回るくらい身体を揺らして気持ちよさそうに弾いている藤咲を美しいと思った……。
クリスマスが近づいているからか、有名なクリスマスソング。周りを見渡せば目を瞑りながら藤咲が奏でる音に酔いしれている人、
手を繋いで聴いているカップル、様々な人達の心をも魅力していた。
一曲弾き終えると立ちまち拍手が鳴り響く。
藤咲の表情は終始柔らかくて、心からピアノを楽しんでいるようにも見える。
藤咲は暫く余韻に浸り、椅子から立ち上がると「ありがとうございました」と普段の冷たい彼からは想像できないほど、観覧客に対して礼儀正しくお辞儀をしていた。
彼のファンらしき若めのお姉様方からのプレゼントを貰う表情はアイドル顔負けの笑顔。
「先輩知ってましたか?尚弥、たまにストリートピアノやってるんです。動画とか上げたりしてて、それで律仁さんが動画を見つけてライブのゲストに呼んでいた経由があるんですけど」
「そうなのか、知らなかった……」
「先輩はどう見えましたか?尚弥のこと」
「どうって………」
藤咲はピアノに対して自分みたいに惰性でやっている訳じゃない、楽しそうで安心した。そして、弾き終えた後に見せた笑顔が昔の藤咲を思い起こさせて胸に湧き立つものを感じた。笑顔になれないのは俺の前だけで本人はちゃんと前を見据えて生きている。
それが少し寂しく感じたが、自分が口出し出来る立場ではない。
この距離で彼を遠くから見ている関係が、一番お互いの為のような気がした。
演奏は完全に終了したのか、周りに集まっていた人が徐々に捌けていき、それぞれの向かう場所へと散っていく。人が少なくなったのをいいことに渉太が「尚弥!!」と藤咲のことを呼びだしたので、大樹は慌ててアルバイトを口実にその場を去った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
R-18♡BL短編集♡
ぽんちょ♂
BL
頭をカラにして読む短編BL集(R18)です。
pixivもやってるので見てくださいませ✨
♡喘ぎや特殊性癖などなどバンバン出てきます。苦手な方はお気をつけくださいね。感想待ってます😊
リクエストも待ってます!
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる