11 / 242
長山の家
長山の家⑤
しおりを挟む
茶色く後ろで括ってある長い髪に綺麗に整えられた無精髭。丸メガネ、消し炭色のタートルニットにキャラメル色のジャケットコート。兄の宏明が丁度、履物を脱いで家へと上がってこようとしていた。
大樹は階段の中段から一歩も動けずに立ち止まっていた。自然と拳が握られ、手に汗が滲む。向こうは此方の存在に気がついたのか、
目線がかち合うと「ああ、大樹か」と眉を下げて微笑してきた。
大樹はそれに応えることなどせずに軽く会釈をすると、横切ろうと足場に階段を降りては靴を履くが、手首を掴まれ呼び止められてしまう。
「失礼じゃないか、実の兄に挨拶もなしに出ていくつもりかい?」
手首に宏明の細い指が絡み、力強く掴まれる。見かけによらず握力が強いのか、折れそうになるくらいの痛さだった。
昔からそうだった。兄は俺に対する態度だけで容赦ない。それは、兄にとって俺の存在が憎たらしくて疎ましく思っているからだ。
「兄さん、痛いです。無視したことは謝るので離して貰えますか」
大樹は顔を歪めながらも、宏明に向かってそう訴えると潔く離される。玄関先に立っている宏明と向かい合うと少し距離を置いて立つ。今も幼い時も変わらない俺を見る蔑んだ眼差しに押し負けそうになる。
「お久しぶりです。母さんと食事ですか?」
「ああ、たまには親孝行しないとね。母さんは唯一の俺の理解者だから」
兄の素行の悪さに厳しい父親と兄はよく出来た息子だと甘やかす母親。そして、その母親の甘さに漬け込んでいる兄。
律仁のライブの日に全てを知った。
音信不通で行方を眩ましていたはずの兄は、実は俺達の知らないところで母親に内緒で援助をしてもらって生活をしていたということ。
そして、ピアニストとして芽が出なかった宏明はピアニストの道を諦め、優秀な調律師の元で修行をしていたということ。
大樹は全て麗子と藤咲の母親から事情を聞いた。
大樹は階段の中段から一歩も動けずに立ち止まっていた。自然と拳が握られ、手に汗が滲む。向こうは此方の存在に気がついたのか、
目線がかち合うと「ああ、大樹か」と眉を下げて微笑してきた。
大樹はそれに応えることなどせずに軽く会釈をすると、横切ろうと足場に階段を降りては靴を履くが、手首を掴まれ呼び止められてしまう。
「失礼じゃないか、実の兄に挨拶もなしに出ていくつもりかい?」
手首に宏明の細い指が絡み、力強く掴まれる。見かけによらず握力が強いのか、折れそうになるくらいの痛さだった。
昔からそうだった。兄は俺に対する態度だけで容赦ない。それは、兄にとって俺の存在が憎たらしくて疎ましく思っているからだ。
「兄さん、痛いです。無視したことは謝るので離して貰えますか」
大樹は顔を歪めながらも、宏明に向かってそう訴えると潔く離される。玄関先に立っている宏明と向かい合うと少し距離を置いて立つ。今も幼い時も変わらない俺を見る蔑んだ眼差しに押し負けそうになる。
「お久しぶりです。母さんと食事ですか?」
「ああ、たまには親孝行しないとね。母さんは唯一の俺の理解者だから」
兄の素行の悪さに厳しい父親と兄はよく出来た息子だと甘やかす母親。そして、その母親の甘さに漬け込んでいる兄。
律仁のライブの日に全てを知った。
音信不通で行方を眩ましていたはずの兄は、実は俺達の知らないところで母親に内緒で援助をしてもらって生活をしていたということ。
そして、ピアニストとして芽が出なかった宏明はピアニストの道を諦め、優秀な調律師の元で修行をしていたということ。
大樹は全て麗子と藤咲の母親から事情を聞いた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています




サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる