君のために僕は歌う

なめめ

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すれ違う方向

すれ違う方向②

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音楽番組以外にもバラエティ番組に出る機会を増えて半年も過ぎれば
アリーナ規模の単独公演を行えるほどのファンがいった。
年末の歌の音楽祭にも出番は僅かであるが出演できるようになり、
鈴奈とも何度か局内の廊下ですれ違うこともあったが、お互いに暗黙の了解のように言葉は交わさない。

一年で最も売れた人に贈られる新人賞を獲り、更なる遠い存在となっていく鈴奈。けれどいつかトップになって彼女を取り戻すという志すものがあった律仁にとっては、やる気を燃やす糧となっていた。

大樹とデュオでやっていけば全てが上手くいく。そう思っていたが、年を越し、新しい年度を迎え、三枚目のシングルを発売した辺りから大樹の様子が変わっていく。

あんなに真面目で何事にも重順だった青年も成長期を迎え、身体だけではなく
思考面でも自分の意志や意見をもつようになっていた。それが今までは仕事に対して意見を出し合い、協調できていたが、対立することの方が増えていった。

彼だって受験の年だし、移動中に勉強することは致し方ないにしても
ライブの日だと言うのにリハが終わると開演ギリギリまで曲目の復習や声出しではなく、教科書を広げて勉強を始める。

楽屋だけの話ならまだ目を瞑れたことも、次第に仕事にまで影響を及ぼすようになっていた。先輩のバラエティ番組のVTRを見ているとき、居眠りをこけるようになり、先輩から御叱りを受けては律仁も連帯責任として楽屋に頭を下げて謝りに行った。

フラストレーションを溜めながらも、こんなことで全てを終わりにしたくなかった律仁であったが今日の番組収録では流石に怒らざる負えなかった。

「おい、大樹。中馬なかまさんに対してのあの態度なんだよ」

収録が終わり、颯爽とスタジオを出て行った大樹を追いかけては、
楽屋に入った途端に彼の肩を掴む。

「何ってなに?別に俺なりに普通に返しただけだが?」
「あれの何処が普通だよ。あんだけスタジオしらけさせてお前、どういうつもりだ?」

楽曲披露の前に司会の芸人とトークを繰り広げる音楽番組。
中馬さんとはベテランのコンビ芸人の方だった。
事の発端は普段は律仁にスポットを置かれて話題が振られることが多いトークで今回は大樹に振られてしまったのが全ての原因。

芸能界では厳しくもお茶目なキャラの大樹の父親。
大樹がその息子だと知った中馬さんは大樹にバイオリンを披露してくれないかと無茶振りをしてきた。大樹にとってバイオリンは音楽一家の宿命を背負って
やっていることに過ぎないことだけに、こういった番組で乗り気にならないことは知っていた。

律仁が「今、ヴァイオリンなんか持ってきてないですよー。俺、口笛で一節歌えますよ」と話題を逸らそうと頑張ってみたがスタッフが予め大樹の愛用しているバイオリンを吉澤に借りていたらしく、弾かざる負えない状況になってしまった。

こうなった以上大樹も状況に合わせて弾いてくれるはずだと、信じて疑わなかった律仁であったが、立ち上がってヴァイオリンを構えた大樹はあからさまに嫌そうな顔をしながらも一節弾いた後「だるっ」と呟いたことから
一気にスタジオが凍てついてしまった。

律仁が冷や汗をかきながら「俺のっ!口笛もぜひ!!聞いてくださいっ」とフォローしたことで場は納まったが、その後の曲披露も、アイドルにしてあるまじき笑顔がなく、惰性的で右手を合わせて握る振付の時に大樹に手を弾かれてしまった。

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