君のために僕は歌う

なめめ

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志すもの

志すもの⑨

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レッスン後、毎回送迎をしてくれている吉澤が掛け持ちで受け持っているタレントの現場が遅れているからアトリエで待っとけと連絡が入り、長山を連れていつもの喫茶店へ向かうことになった。

休憩中に途切れてしまった話も聞きたかったし丁度良かった。
ダンスレッスンの現場から歩いて十分程の大きい道路沿いにある『喫茶アトリエ』の扉を開く。一瞬だけ振り向くと長山は初めて来る場所に戸惑っているのか辺りをキョロキョロと見渡して、背中を丸めていた。

律仁は先陣を切って店内を歩くと、一直線にカウンター席へと向かう。
喫茶のカウンターには店主の黒田がサイフォンでコーヒを淹れている前で
新聞を広げていた。

「おやじ、いつものお願い。こいつにも」

黒田に向かって長山を指しながら座席に着くと同時に黒田は新聞を折りたたんで隣に座った長山に視線を向けていた。

「その子は?随分幼そうだけど大丈夫か?」

時刻は午後21時を回ったところ。確かに未成年が夜の喫茶店に出入りしているなんて補導されてしまう時間だが、吉澤が迎えに来るのを待つだけに致し方がなかった。

「大丈夫。後から吉澤さんが迎えに来るから。こいつさ、長山大樹ながやまたいきって言うんだ。俺たちさ、これからユニット組むの。来月デビューだってさ」

未だにデビューのことは認めていないが、幾ら幼いころからの付き合いがある黒田だからこそ、長山のことを正直に説明せざる負えない。
だからと言って吉澤とも交流のある黒田に律仁がデビューに対して意固地になっていると赤裸々に話して、告発されても面倒だった。

長山の肩を軽く叩いて紹介すると、彼はその場に立ち上がり、深々とお辞儀をしていた。

「長山大樹です。これから律仁くんと一緒にユニットを組ませていただきます。よろしくお願いします」

「おお、随分としっかりしてるね。よろしく」

関係者でもないのに、丁寧に挨拶をしているところから自分との育ちの違いを痛感する。自分は黒田に初めて会った時、挨拶どころか不貞腐れていたのが記憶にあった。

「なが……。大樹、黒田さんにはもっとフランクでいいよ」

長山と言おうとして口を噤んで、下の名前で彼を呼んだのは見栄のようなものだった。年下相手に育ちの良さで嫉妬しているなんて幼稚な心を黒田に気づかれたくない。しかし、今まで『お前』だとか『此奴』だとかで呼んでいたのでその場で叫んでしまいたい程のむず痒い気持ちになった。

律仁は黒田に気づかれぬようにグッと唇と噛んでやり過ごしては、黒田が店のキッチンでホットサンドを作り始めたのを見計らって「話の続き、聞かせろよ」と切り出した。

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