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志すもの
志すもの⑥
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社交辞令なのか何かは知らないが、いちいち律仁に突っかかってくるのは鬱陶しかったので、押し黙らせたことで静かになり、清々していた。
今は誰も自分の領域に踏み込ませたくない。殻に閉じこもるように両腕で頭を抱えて再び一人の世界へと逃げ込む。
一層の事自ら辞めてしまおうか。
しかし此処まで来た以上、吉澤は意地でも律仁をデビューさせようとするだろう。お金のない学生の身分で吉澤が追って来ない、鈴奈の声も届かない、どこか遠くに逃げることは容易ではなかった。
唯々此処にいて頭を抱えて日々を過ごすしかないことに絶望し、希望など見えるはずがない。
「ねぇ、麻倉くん。麻倉くん‼」
「あーもうなんだよ」
折角追い払った筈の長山に肩を揺すられ、顔を上げざる負えなくなる。
半分怒気を込めながら返事をすると少しだけ彼の身体がビクリと震えた。
そんなに怖がるなら、いちいち俺に話し掛けくんなよ……。
「鈴奈さんってそんなに君の大切な人なの?」
「だから何だよ」
「君が樫谷さんを殴った時、鈴奈さん凄い悲しい顔してたから。彼女も君のこと想っていないとそんな顔しないような気がして……。そうだったらやっぱり君のことを裏切ったのには理由があるんじゃないかって思ったから」
「中坊のお前に俺と鈴奈の何が分かんの。そもそも本人に聞きたくても
樫谷に邪魔されて終わりだ。希望を持ったところで結局鈴奈は樫谷をとった。鈴奈は嫌々音楽を拒絶していた俺を焚きつけるために俺の恋心を利用して役割を果たしただけ。悲しい顔を見たって言うならきっと樫谷を殴った俺に引いたんだろ」
「でも余計なこと言ってごめん……。でも、そんなことは……」
「うるせーから黙ってくんない?」
鈴奈を悪者にでっちあげないと心を保っていられない。
全ては吉澤の指示のもと、俺が恋愛感情を抱いたのをいいことに散々、誑かして持ち上げていただけ……。冷めた心で突き放そうとしても、あの夜の鈴奈と心と体も交わえた幸福感を嘘だったと思うたび胸が苦しくなる。
「君は凄いよ。どんなに大きな相手でも好きな人の為なら立ち向かっていけるんだもん……。僕もあのとき君のように出来てたら何か変ったかもしれないのに……」
長山は律仁の隣で一緒になって膝を抱えて座り始めたかと思えば、目を伏せる。
「あの時って何?あんたも訳ありなの?」
俺のことを空気も読まず絡んでくる奴かと思えば、急に一緒になって感傷的になる此奴を見ていると自分が何か励ましてやらなければいけない使命感を感じて調子が狂う。
今は誰も自分の領域に踏み込ませたくない。殻に閉じこもるように両腕で頭を抱えて再び一人の世界へと逃げ込む。
一層の事自ら辞めてしまおうか。
しかし此処まで来た以上、吉澤は意地でも律仁をデビューさせようとするだろう。お金のない学生の身分で吉澤が追って来ない、鈴奈の声も届かない、どこか遠くに逃げることは容易ではなかった。
唯々此処にいて頭を抱えて日々を過ごすしかないことに絶望し、希望など見えるはずがない。
「ねぇ、麻倉くん。麻倉くん‼」
「あーもうなんだよ」
折角追い払った筈の長山に肩を揺すられ、顔を上げざる負えなくなる。
半分怒気を込めながら返事をすると少しだけ彼の身体がビクリと震えた。
そんなに怖がるなら、いちいち俺に話し掛けくんなよ……。
「鈴奈さんってそんなに君の大切な人なの?」
「だから何だよ」
「君が樫谷さんを殴った時、鈴奈さん凄い悲しい顔してたから。彼女も君のこと想っていないとそんな顔しないような気がして……。そうだったらやっぱり君のことを裏切ったのには理由があるんじゃないかって思ったから」
「中坊のお前に俺と鈴奈の何が分かんの。そもそも本人に聞きたくても
樫谷に邪魔されて終わりだ。希望を持ったところで結局鈴奈は樫谷をとった。鈴奈は嫌々音楽を拒絶していた俺を焚きつけるために俺の恋心を利用して役割を果たしただけ。悲しい顔を見たって言うならきっと樫谷を殴った俺に引いたんだろ」
「でも余計なこと言ってごめん……。でも、そんなことは……」
「うるせーから黙ってくんない?」
鈴奈を悪者にでっちあげないと心を保っていられない。
全ては吉澤の指示のもと、俺が恋愛感情を抱いたのをいいことに散々、誑かして持ち上げていただけ……。冷めた心で突き放そうとしても、あの夜の鈴奈と心と体も交わえた幸福感を嘘だったと思うたび胸が苦しくなる。
「君は凄いよ。どんなに大きな相手でも好きな人の為なら立ち向かっていけるんだもん……。僕もあのとき君のように出来てたら何か変ったかもしれないのに……」
長山は律仁の隣で一緒になって膝を抱えて座り始めたかと思えば、目を伏せる。
「あの時って何?あんたも訳ありなの?」
俺のことを空気も読まず絡んでくる奴かと思えば、急に一緒になって感傷的になる此奴を見ていると自分が何か励ましてやらなければいけない使命感を感じて調子が狂う。
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