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志すもの
志すもの④
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驚いた表情を見せたあとですぐ様目を伏せられてしまう。鈴奈がどういう経緯で樫谷のプロデュースを受けるとこになったか知らないが、せめて一言くらい欲しかった。
怒気を込めて掴んだ彼女の手首は、律仁がもう少し力を入れてしまえば折れてしまうほど細い。彼女ってこんなに弱々しかっだろうか。律仁といる時の鈴奈は、もっと芯が強くて俺に強い口調でくってかかってくるような奴だったのに……。
「これはこれは、君は麻倉律仁くんだったっけ?うちのレイナくんに何か用かい?」
鈴奈に詰め寄る律仁に気づいた樫谷が、間に割って入って来たことで自然と掴んでいた手が離れていく。完全に樫谷が壁となって律仁の視界からも鈴奈のことを遮ろうとしてくる。
「あんたの鈴奈って……。用も何も話が違うだろ?鈴奈はあんたに声かけられた後あんたの話に乗る気はないって言ってた。あんたと話す機会があるときに俺らの話をして二人でデビューしてもらえるように話すって言ってたんだよ。なのに俺は鈴奈だけのデビューの話なんて聞いてない」
「そんな話、あったかな?僕は最初からレイナくんにしか興味がなかったからね。あったとしても君みたいな中途半端な男をプロデュースするだけ無駄だよ」
鈴奈が本当に樫谷に二人のことを話したかは定かではない。
けれど、男の言い草がいちいち癪に触って今にも殴りかかりそうなのを必死に拳を握ってやり過ごした。今は、鈴奈の本心が聞きたい。
「じゃあ、あんたが唆したのか。鈴奈の家は苦労してるからそれを出汁にお前が鈴奈を唆したんじゃないのか?なあ、鈴奈だってそうなんだろ?」
あんなに積極的に俺との活動をしていた鈴奈が急に樫谷に寝返るなんてお金のこと以外考えられなかった。
現に鈴奈が浮かない顔で家に電話をしている姿を見てしまっていたから、その線が濃厚だった。彼女自身の本意じゃない。そう信じたかった。
「唆しただなんて……。これは取引の話だよ。レイナくんは路上で見た時から魅力的だったからね。君のような三流にも満たない男と音楽ごっこしてるくらいなら僕の女になってくれたらデビューの大ヒットも約束するし、君の弟が大学に通えるくらいのお金を援助してあげるって話しただけさ。決めたのは彼女自身だ」
半分ネグレクト家庭に生まれたような律仁が齢16で財力も権力もあるはずがないのは分かっている。決して過大評価をしているわけではないが、吉澤にも世間にも親にも顔だけで評価をされてきた自分が鈴奈とやっていけるだけの、彼女の曲を作る才能があると思っていたかった。
樫谷と話をすればするほど、自分の惨めさを痛感させられる。
結局、世の中は金だとか権力だとかで左右されてしまう。母親も鈴奈も財のあるものに流れていったというのだろうか……。
そう思えば思うほど虚しさと憤りを覚える。
「てめぇに何がわかんだよ。俺は今、鈴奈と話してんだ。邪魔すんな」
「麻倉くん、周りが見てるから……いくら何でもやりすぎ……」
長山が蚊の鳴くような声で律仁を呼び止めていても耳に入らなかった。
それよりも唯々目の前の男が憎たらしくて、一生懸命やってきたことを端から否定された、悲しみと怒りで樫谷の胸倉に掴みかかっては気づけば拳を振り落としていた。
怒気を込めて掴んだ彼女の手首は、律仁がもう少し力を入れてしまえば折れてしまうほど細い。彼女ってこんなに弱々しかっだろうか。律仁といる時の鈴奈は、もっと芯が強くて俺に強い口調でくってかかってくるような奴だったのに……。
「これはこれは、君は麻倉律仁くんだったっけ?うちのレイナくんに何か用かい?」
鈴奈に詰め寄る律仁に気づいた樫谷が、間に割って入って来たことで自然と掴んでいた手が離れていく。完全に樫谷が壁となって律仁の視界からも鈴奈のことを遮ろうとしてくる。
「あんたの鈴奈って……。用も何も話が違うだろ?鈴奈はあんたに声かけられた後あんたの話に乗る気はないって言ってた。あんたと話す機会があるときに俺らの話をして二人でデビューしてもらえるように話すって言ってたんだよ。なのに俺は鈴奈だけのデビューの話なんて聞いてない」
「そんな話、あったかな?僕は最初からレイナくんにしか興味がなかったからね。あったとしても君みたいな中途半端な男をプロデュースするだけ無駄だよ」
鈴奈が本当に樫谷に二人のことを話したかは定かではない。
けれど、男の言い草がいちいち癪に触って今にも殴りかかりそうなのを必死に拳を握ってやり過ごした。今は、鈴奈の本心が聞きたい。
「じゃあ、あんたが唆したのか。鈴奈の家は苦労してるからそれを出汁にお前が鈴奈を唆したんじゃないのか?なあ、鈴奈だってそうなんだろ?」
あんなに積極的に俺との活動をしていた鈴奈が急に樫谷に寝返るなんてお金のこと以外考えられなかった。
現に鈴奈が浮かない顔で家に電話をしている姿を見てしまっていたから、その線が濃厚だった。彼女自身の本意じゃない。そう信じたかった。
「唆しただなんて……。これは取引の話だよ。レイナくんは路上で見た時から魅力的だったからね。君のような三流にも満たない男と音楽ごっこしてるくらいなら僕の女になってくれたらデビューの大ヒットも約束するし、君の弟が大学に通えるくらいのお金を援助してあげるって話しただけさ。決めたのは彼女自身だ」
半分ネグレクト家庭に生まれたような律仁が齢16で財力も権力もあるはずがないのは分かっている。決して過大評価をしているわけではないが、吉澤にも世間にも親にも顔だけで評価をされてきた自分が鈴奈とやっていけるだけの、彼女の曲を作る才能があると思っていたかった。
樫谷と話をすればするほど、自分の惨めさを痛感させられる。
結局、世の中は金だとか権力だとかで左右されてしまう。母親も鈴奈も財のあるものに流れていったというのだろうか……。
そう思えば思うほど虚しさと憤りを覚える。
「てめぇに何がわかんだよ。俺は今、鈴奈と話してんだ。邪魔すんな」
「麻倉くん、周りが見てるから……いくら何でもやりすぎ……」
長山が蚊の鳴くような声で律仁を呼び止めていても耳に入らなかった。
それよりも唯々目の前の男が憎たらしくて、一生懸命やってきたことを端から否定された、悲しみと怒りで樫谷の胸倉に掴みかかっては気づけば拳を振り落としていた。
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