60 / 92
認めたくない相方
認めたくない相方⑦
しおりを挟む
話を聞く限り、長山にも音楽の楽しさを教えてくれたような人がいた。
自分と境遇が似ているように感じたからこそ、そんな希望の満ち溢れた前向きな発言は今の律仁にとって逆効果であった。裏切られたことがないからそんな軽い発言ができるに違いない。
「じゃあさ、その恩師に。信じてた人に裏切られた気持ち。あんたに分かんの?」
14歳やそこらで人に裏切られる苦しみだとか知っている筈がない。
ちょっとした意地悪心からの問いだった。希望に溢れている発言をしたこの少年に心を折るようなことを言ってやればどんな反応を示すのか、困惑させるであることを見越しての発言。
隣に尻餅をついていた長山に視線を移すと、彼の表情が見る見るうちに青ざめていったのが分かった。唇を震わせ呼吸が浅くなっていく。
「おいおい、冗談だって。ただ聞いてみただけ、本気にすんなよ」
目線が遠くを見つめ、今にも何処か遠い処へ行ってしまいそうな彼に律仁は慌てて駆け寄ると背中を摩ってやった。そこまで追い詰めるつもりはなかったが、此奴の地雷を踏んでしまったのだろうか。
自身のスクール鞄に入れていた飲みかけのスポーツドリンクを長山に渡して飲ませると過呼吸気味であった呼吸が整って行く様を見届けて律仁は安堵の息を漏らす。
「裏切られた気持ちは僕は分からない。でも、う、裏切った方はやむおえない事情があったのかもしれないし……。全部自分の弱さからの防衛反応だと思うから……。でもそれを正当化して裏切っていい理由にはならないって分かってる。少なくとも僕は……。裏切られた方からしたらそんなこと関係ないことかもしれないけど、裏切る方もそれなりに傷を負っているんだと思う」
呼吸を落ち着かせた長山は一息つくと虚ろな瞳でゆっくりと語ってきた。
さも自分が裏切る側の人間であったかのようなような発言。
俺よりも人生経験が浅いはずなのに重たい十字を背負っているような長山の雰囲気から、いつもは「そんなこと知らねー」、「裏切る方が悪い」と言い返しているところであったが反論する気にならなかった。
それは彼の発言を聞いてもしかして鈴奈も本心から望んでいたわけではないと
やむ負えない事情があったからなのではないかと思いたかったからであった。
「なあ、レッスンいいからさぁ。着いて来て欲しいとこあんだけど」
長山が顔を上げて律仁と視線を合わせてくる瞳は僅かに戸惑いを感じたが、
真意を確かめに行くのにひとりは怖くて誰かについていて欲しかった。
やっぱり本人の口から真意を知りたい……。
どうしてこうなったかを……。
じゃないと俺の中で納得ができない。
自分と境遇が似ているように感じたからこそ、そんな希望の満ち溢れた前向きな発言は今の律仁にとって逆効果であった。裏切られたことがないからそんな軽い発言ができるに違いない。
「じゃあさ、その恩師に。信じてた人に裏切られた気持ち。あんたに分かんの?」
14歳やそこらで人に裏切られる苦しみだとか知っている筈がない。
ちょっとした意地悪心からの問いだった。希望に溢れている発言をしたこの少年に心を折るようなことを言ってやればどんな反応を示すのか、困惑させるであることを見越しての発言。
隣に尻餅をついていた長山に視線を移すと、彼の表情が見る見るうちに青ざめていったのが分かった。唇を震わせ呼吸が浅くなっていく。
「おいおい、冗談だって。ただ聞いてみただけ、本気にすんなよ」
目線が遠くを見つめ、今にも何処か遠い処へ行ってしまいそうな彼に律仁は慌てて駆け寄ると背中を摩ってやった。そこまで追い詰めるつもりはなかったが、此奴の地雷を踏んでしまったのだろうか。
自身のスクール鞄に入れていた飲みかけのスポーツドリンクを長山に渡して飲ませると過呼吸気味であった呼吸が整って行く様を見届けて律仁は安堵の息を漏らす。
「裏切られた気持ちは僕は分からない。でも、う、裏切った方はやむおえない事情があったのかもしれないし……。全部自分の弱さからの防衛反応だと思うから……。でもそれを正当化して裏切っていい理由にはならないって分かってる。少なくとも僕は……。裏切られた方からしたらそんなこと関係ないことかもしれないけど、裏切る方もそれなりに傷を負っているんだと思う」
呼吸を落ち着かせた長山は一息つくと虚ろな瞳でゆっくりと語ってきた。
さも自分が裏切る側の人間であったかのようなような発言。
俺よりも人生経験が浅いはずなのに重たい十字を背負っているような長山の雰囲気から、いつもは「そんなこと知らねー」、「裏切る方が悪い」と言い返しているところであったが反論する気にならなかった。
それは彼の発言を聞いてもしかして鈴奈も本心から望んでいたわけではないと
やむ負えない事情があったからなのではないかと思いたかったからであった。
「なあ、レッスンいいからさぁ。着いて来て欲しいとこあんだけど」
長山が顔を上げて律仁と視線を合わせてくる瞳は僅かに戸惑いを感じたが、
真意を確かめに行くのにひとりは怖くて誰かについていて欲しかった。
やっぱり本人の口から真意を知りたい……。
どうしてこうなったかを……。
じゃないと俺の中で納得ができない。
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編は時系列順ではありません。
更新日 2/12 『受け継ぐ者』
更新日 2/4 『秘密を持って生まれた子 3』(全3話)
02/01『秘密を持って生まれた子 2』
01/23『秘密を持って生まれた子 1』
01/18『美之の黒歴史 5』(全5話)
12/30『とわずがたり~思い出を辿れば~2,3』
12/25『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11~11/19『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12 『いつもあなたの幸せを。』
9/14 『伝統行事』
8/24 『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
『日常のひとこま』は公開終了しました。
7/31 『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18 『ある時代の出来事』
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和7年1/25
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
【完結】天上デンシロック
海丑すみ
青春
“俺たちは皆が勝者、負け犬なんかに構う暇はない”──QUEEN/伝説のチャンピオンより
成谷響介はごく普通の進学校に通う、普通の高校生。しかし彼には夢があった。それはかつて有名バンドを輩出したという軽音楽部に入部し、将来は自分もロックバンドを組むこと!
しかし軽音楽部は廃部していたことが判明し、その上響介はクラスメイトの元電子音楽作家、椀田律と口論になる。だがその律こそが、後に彼の音楽における“相棒”となる人物だった……!
ロックと電子音楽。対とも言えるジャンルがすれ違いながらも手を取り合い、やがて驚きのハーモニーを響かせる。
---
※QUEENのマーキュリー氏をリスペクトした作品です。(QUEENを知らなくても楽しめるはずです!)作中に僅かながら同性への恋愛感情の描写を含むため、苦手な方はご注意下さい。BLカップル的な描写はありません。
---
もずくさん( https://taittsuu.com/users/mozuku3 )原案のキャラクターの、本編のお話を書かせていただいています。
実直だが未熟な高校生の響介は、憧れのロッカーになるべく奔走する。前途多難な彼と出会ったのは、音楽に才能とトラウマの両方を抱く律。
そして彼らの間で揺れ動く、もう一人の友人は──孤独だった少年達が音楽を通じて絆を結び、成長していく物語。
表紙イラストももずくさんのイラストをお借りしています。本編作者( https://taittsuu.com/users/umiusisumi )もイラストを描いてますので、良ければそちらもよろしくお願いします。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる