57 / 92
認めたくない相方
認めたくない相方④
しおりを挟む
「……それでもサボったら吉澤さんに怒られるし、デビューまで時間ないんだから、ちゃんと受けようよ」
顔を上げた長山はベッドから立ち上がると律仁の元まで近づいてきた。
一見、口では真面目なことを言っているが此奴から表情に正気を感じられない。先程の呟きからも負の感情が滲み出ていて誰かに言われて仕方なくやっているような、どこか義務的なものを感じ、瞳の奥が澱んでいた。
あんな結果になってしまったけど、鈴奈は自らがやりたくて音楽をやっていた。表情がキラキラと輝いていて眩しくて、だから自分はそんな彼女に惹かれて自らも歌いたいと思えた。俺と歌っている時も鈴奈は楽しそうに歌っていた。俺だけじゃない、此処にいるやつらは、少なからず夢や希望を抱いて活動をしている人たちで活き活きとしているのは間違いなかった。
「吉澤に怒られるのが嫌だから受けるとか、そこにお前の意志はあるのか?
お前は俺と本気でアイドルやりたいと思って言って来てんの?」
初対面の中坊に意地悪い問いだと分かっていたが、仮にも此奴と組むことになるのだとしたら律仁が納得できるような人であってほしかったし、単純に己の意志を主張できない奴は律仁の一番苦手なタイプだった。
案の定、長山は俯いて黙り込む。「ほら、みたことか」と内心で呟きながらも律仁は再び青年に背を向けて、左腕を枕にすると瞼を閉じた。今日は色々ありすぎて精神的に参っている人のことなど構っている余裕はない。
考えるのは鈴奈のことばかりだった。
「ぼ、僕にだってやりたいことがあるんだっ」
暫くして静寂に包まれていた部屋から長山が緊迫感のある声音で訴えてきて、落としていた瞼を開いた。
「だから僕はどうしても君と組んで芸能人にならなきゃならないんだ。その為に今日までレッスンだってしてきたし……。もう家には帰りたくないから……」
どんな表情で言って来ているのかは分からなかったが、声音から真剣さは伝わってきた。それに写真で見る限りでは裕福そうな坊ちゃんである此奴が家に帰りたくないと言うのだから何か訳ありなんだろう。
律仁は上体を起こして、長山と向き合うと彼は両拳を握って真っすぐ前を見据えて来ていた。
顔を上げた長山はベッドから立ち上がると律仁の元まで近づいてきた。
一見、口では真面目なことを言っているが此奴から表情に正気を感じられない。先程の呟きからも負の感情が滲み出ていて誰かに言われて仕方なくやっているような、どこか義務的なものを感じ、瞳の奥が澱んでいた。
あんな結果になってしまったけど、鈴奈は自らがやりたくて音楽をやっていた。表情がキラキラと輝いていて眩しくて、だから自分はそんな彼女に惹かれて自らも歌いたいと思えた。俺と歌っている時も鈴奈は楽しそうに歌っていた。俺だけじゃない、此処にいるやつらは、少なからず夢や希望を抱いて活動をしている人たちで活き活きとしているのは間違いなかった。
「吉澤に怒られるのが嫌だから受けるとか、そこにお前の意志はあるのか?
お前は俺と本気でアイドルやりたいと思って言って来てんの?」
初対面の中坊に意地悪い問いだと分かっていたが、仮にも此奴と組むことになるのだとしたら律仁が納得できるような人であってほしかったし、単純に己の意志を主張できない奴は律仁の一番苦手なタイプだった。
案の定、長山は俯いて黙り込む。「ほら、みたことか」と内心で呟きながらも律仁は再び青年に背を向けて、左腕を枕にすると瞼を閉じた。今日は色々ありすぎて精神的に参っている人のことなど構っている余裕はない。
考えるのは鈴奈のことばかりだった。
「ぼ、僕にだってやりたいことがあるんだっ」
暫くして静寂に包まれていた部屋から長山が緊迫感のある声音で訴えてきて、落としていた瞼を開いた。
「だから僕はどうしても君と組んで芸能人にならなきゃならないんだ。その為に今日までレッスンだってしてきたし……。もう家には帰りたくないから……」
どんな表情で言って来ているのかは分からなかったが、声音から真剣さは伝わってきた。それに写真で見る限りでは裕福そうな坊ちゃんである此奴が家に帰りたくないと言うのだから何か訳ありなんだろう。
律仁は上体を起こして、長山と向き合うと彼は両拳を握って真っすぐ前を見据えて来ていた。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
映写機の回らない日 北浦結衣VS新型ウイルス感染症
シネラマ
青春
世界中に広がる新型ウイルス感染症を前に、映画館で働く北浦結衣はどう立ち向かったのか。ある戦いの記録。
作者より:この短編小説は、二〇二〇年三月一八日から一九日の二日間をかけて書いた一話完結の短編『私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症』に登場するサブキャラクターの結衣を主人公にしたものです。三月一九日前後と、いまでは世の中の状況は異なっています。いまの状況を見据えて、今度は連載短編として、私が感じたことを物語りに投影し、少しずつ書いていきたいと思います。
初恋の味はチョコレート【完結】
華周夏
青春
由梨の幼馴染みの、遠縁の親戚の男の子の惟臣(由梨はオミと呼んでいた)その子との別れは悲しいものだった。オミは心臓が悪かった。走れないオミは、走って療養のために訪れていた村を去る、軽トラの由梨を追いかける。発作を起こして倒れ混む姿が、由梨がオミを見た最後の姿だった。高校生になったユリはオミを忘れられずに──?
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
冬の夕暮れに君のもとへ
まみはらまさゆき
青春
紘孝は偶然出会った同年代の少女に心を奪われ、そして彼女と付き合い始める。
しかし彼女は複雑な家庭環境にあり、ふたりの交際はそれをさらに複雑化させてしまう・・・。
インターネット普及以後・ケータイ普及以前の熊本を舞台に繰り広げられる、ある青春模様。
20年以上前に「774d」名義で楽天ブログで公表した小説を、改稿の上で再掲載します。
性的な場面はわずかしかありませんが、念のためR15としました。
改稿にあたり、具体的な地名は伏せて全国的に通用する舞台にしようと思いましたが、故郷・熊本への愛着と、方言の持つ味わいは捨てがたく、そのままにしました。
また同様に現在(2020年代)に時代を設定しようと思いましたが、熊本地震以後、いろいろと変わってしまった熊本の風景を心のなかでアップデートできず、1990年代後半のままとしました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
俺にはロシア人ハーフの許嫁がいるらしい。
夜兎ましろ
青春
高校入学から約半年が経ったある日。
俺たちのクラスに転入生がやってきたのだが、その転入生は俺――雪村翔(ゆきむら しょう)が幼い頃に結婚を誓い合ったロシア人ハーフの美少女だった……!?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる