君のために僕は歌う

なめめ

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偽りの花言葉

偽りの花言葉①

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鈴奈をスカウトしてきた樫谷の存在が気になりながらも、律仁は着々とライブに向けて準備を進めていた。


あの男がいつ事務所に来て鈴奈と話をしたかは分からない。

あれから鈴奈から連絡はないということは律仁とのデビューの話しは失敗に終わったのだろう。

ダンスレッスンの帰りにそれとなく吉澤に鈴奈の事情を聞いてみたりしたが、彼も知らないようだった。

ライブの日前日、律仁は鈴奈に『最後に打ち合わせしたいんだけど、会えない?』と連絡を入れてみると『いいわよ。夜九時に私の部屋で』と返ってきてギョッとした。


男子と女子で階数が分かれている寮に当然異性の立ち入りは禁止されている。


だから律仁が鈴奈の部屋に入ることは困難だった。

そのことを問うと「寮監には話通しておいてあげるから大丈夫」とだけ返ってきた。

以前、彼女の部屋に入りたいと冗談半分で話した時は適当にあしらわれたのにどういう風の吹き回しなのか不審感を抱いたものの、鈴奈の部屋に入れるのは素直に嬉しかった。


女の子の部屋に入るのは初めてでワクワクする一方で、あくまで翌日のライブに向けての打ち合わせだと云い訊かせる。

午後21時より少し前、初めて女子寮の階に足を踏み入れた。

監視室の窓口に座っている女性寮監と目が合い、身を竦ませながら会釈をすると向こうも目礼をしただけだったので、どうやらちゃんと話は通されているらしい。

入館台帳に名前を記入し、鈴奈のいる部屋の前へと向かう。

途中で同じ寮生とすれ違うのではないかとヒヤヒヤしながら非常階段から近い奥から二番目の807号室の前まで立ち止まると部屋のチャイムを鳴らした。

暫くして扉奥から「はい」と声が聞こえると目の前の扉が開けられ、鈴奈が出てきた。何時もと変わらない、Tシャツにジーパンの彼女であったが髪色が僅かに茶色くなっていたことに目を瞠った。

靴を脱いでるときにふと目に入った鈴奈の爪には、きらきらとスワロフスキーが散りばめられていた。

いつもの鈴奈のようでどことなく雰囲気が違うような……。

「お邪魔します、鈴奈。髪の毛染めたの?」

律仁は戸惑いながらも玄関先へと足を踏み入れると真っ先に問う。

「ああ、うん。どう、似合う?」
「似合う。イメージ変わったから、驚いたけど……爪も綺麗だね」

律仁としては黒髪ロングの方が彼女の性格そのものを表しているようで好きだったけど、それは自分の好みであって相手に強制することではない。

「でしょ。ちょっと気合いれちゃった」と微笑みながら話す彼女に強く「似合わない、前の方がいい。その爪なんてやめろ」と言えるわけもなく、鈴奈だって思春期なのだから髪を染めてネイルだってしたくなる年頃だ。

現に律仁だってカッコつけたくて高校に入ってピアスを開けたし、人の事は言えない……。

でも、そんな爪で明日の演奏できるのだろうか……。


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