君のために僕は歌う

なめめ

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初めて触れる音

初めて触れる音⑥

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真似をして押さえてみても彼女が納得のいかない表情で何度も『違う』と指摘されては、強制的に律仁の指の位置を微調整して動かしにくる。

漸く彼女の思うような形が出来たのか『さっきみたいに左手押さえながら、押さえた所から弦を慣らしてみて』と言われたのでゆっくり弾いてみると先程とは違う音色が鳴った。

「これがドミソの音、いわゆるCコードってヤツ。基礎中の基礎……。大体の人は一番最初は上手く鳴らせないのにあんたって素質あんのね」

目を丸めながらも鈴奈に褒められたのは素直に嬉しかった。
律仁は声ではなく自らの指を使って奏でられる音の高揚感と鈴奈に褒められた嬉しさが相まってギターを抱えながら無意識に鈴奈に向かって顔を近づけていた。

「なぁ、鈴奈。なんかすげぇ、いいかも。もっと俺に教えて?」

「ちょっと、律仁近すぎ」

興奮のあまり近づきすぎたのか彼女の顔が僅か数センチの所にあり、彼女に頬を指で挟まれると遠ざけるように、顔を後方へと押しやられてしまう。

「それに、あんた大蒜臭いから控えて欲しいんだけど」

眉を顰めながら直接的に告げてくる彼女。確かに、鈴奈の働いている店でラーメンと餃子を食べたから大蒜の独特な香りを自ら発している自覚はあったが、そこは目を瞑ってほしかったところであった。高揚した気持ちが鈴奈に拒絶されたことで一気に萎んでいく。

「はぁ?そんなこと言ったら、鈴奈だってラーメン屋の匂いが身体から滲みでてるけど?」
「ひどっ。女の子に向かって、これでもちゃんとボディスプレーかけてきたんだから」

あからさまに落ち込んでいる姿をみられたくなくて、ああいえば、こう言うように律仁も心を踏みにじられた忌まわしさから鈴奈に遠慮なく口喧嘩を吹っ掛けると、彼女は顔を真っ赤にして律仁が抱えてきたギターを奪ってきた。

「おい、ちょっと」
「これは私のだから」

能面のように冷たい視線を送ってくると彼女はそそくさと奪い取ったギターをケースに仕舞うとその場から立ち上がって背負ってしまった。足を踏み鳴らしながら公園を出て行こうとする彼女を律仁は慌てて追いかける。

「教えてくれんじゃねーの?」
「今後の君次第、気が向いたらしてあげてもいいけど」
「はぁ?あんたのボディガードしてやってるんだから教えてくれたって……」

「してるからってしてもらうのが当たり前だって思わないことね」

振り返っては舌を出して律仁に挑発じみた態度を取ってくる。

自分の背中を押してくれたかと思えば、急に機嫌が悪くなるし、女心は秋の空となんかで聞いたことはあるが、こうも難しいものなのかと律仁を大いに悩ませた。

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