14 / 92
助けた代償
助けた代償④
しおりを挟む
翌日もその翌日も律仁はレッスンなんかそっちのけで彼女が歌う公園の広場
で地べたに胡座をかいて右膝に右肘を置き、頬杖をつきながら律仁は目の前の彼女の姿をじっと眺めるのが日課になっていた。最初はあまり乗り気ではなかった彼女のボディガードも彼女の歌っている姿をみるにつれて律仁は彼女に興味を持つようになっていった。
白いギターを肩から下げて、力強い歌声で歌う彼女。
どうしたらあんな風に歌えるのか。歌うことへの感情の部分が欠落している律仁にとって、鈴奈が何を思って歌っているのか、どうしてそんなに楽しそうなのか純粋に興味があった。
日が暮れ始めた公園内の噴水広場。
今日は日曜日で何時もの公園で人が集まる日中の時間帯に彼女は演奏をすると連絡を受けたので、寮にいても吉澤に「レッスン受けろ」だの捕まるだけだと思った律仁は鈴奈の元へと足を運んでいた。
レッスンを受けて、怒られながら歌うよりも鈴奈の歌を聴いている方がいいに決まっている。
「はい、今日の……というかここ数日の報酬ね?」
演奏終了後、鈴奈に「時間ある?」と言われた律仁は当然のように彼女の誘いに乗っかった。
噴水前で待ち合わせと言われたので、律仁は先に行って待っていると暫くしてコンビニの袋をぶら提げた彼女が現れては、アイスの袋を開けると二つに分かれたチューブアイスをパッキンと割って差し出してくる。
「半分こってケチくさ……」
数日間のボディガードの報酬なのであればアイス半分とは言わず二個くらいくれてもいいのにとまだまだ夏も中盤である暑さからくる卑しさでそう呟きながら受け取ると彼女にキツく睨まれてしまった。
「うるさいわねー。私だって一人暮らしでお金ないんだから文句言わないの」
「割に合わなっ……」
「要らないなら、返して」
文句ばかり言う律仁に機嫌を損ねさせてしまったのか、貰ったアイスを彼女に奪われそうになり、慌てて頭上にあげる。
「いりますっ。いりますっ。有難く貰います……」
例え半分こだったとしても、何か冷たいものを欲している体には貰えること事態、有難いものだった。噴水を囲う塀に腰を掛けて鈴奈はチューブアイスの蓋を割って吸い始める。
律仁も大人しく鈴奈の隣に座ると貰ったアイスに口をつけた。
外気温の暑さで既にどろどろに溶けてしまっていたけど、冷たい爽やかなホワイトサワー味が口に広がって一瞬だけでも生き返った気分になる。
「ありがとうね。君のおかげで安心して歌えてるし、やっぱ人がひとりいるだけでも集客効果っていうの?私の歌を立ち止まって聴いてくれる人増えた気がする」
「それは俺のおかげじゃないっしょ。鈴奈の歌が魅力的だから」
確かに一番最初に彼女をみたときは、老人と律仁くらいしかいなかったが
日を追うごとに増えている気はする。
今日は休日ということもあるかもしれないが、中にはギターケースの中に投げ銭をしている人もいたので少しずつでも彼女の日々の成果は出ているようだった。
律仁自身は唯座って聴いているだけなので、御礼を言われることはしていない。彼女を知る前に聞いたときから彼女の歌は律仁を感動させていたし、まだ周りが気づいていないだけで鈴奈は才能がある方だと思う。
「なっ……。何⁉そんな褒めてもこれ以上は何も出ないわよ」
率直な意見を素直に述べたまでだったのに、鈴奈は急に顔を背けてくると空になったチューブアイスのゴミを投げつけてきた。
強がって頬を膨らませながら「捨てておいて」と言ってきた彼女は何処か照れ隠しをしているように見えなくもない。
で地べたに胡座をかいて右膝に右肘を置き、頬杖をつきながら律仁は目の前の彼女の姿をじっと眺めるのが日課になっていた。最初はあまり乗り気ではなかった彼女のボディガードも彼女の歌っている姿をみるにつれて律仁は彼女に興味を持つようになっていった。
白いギターを肩から下げて、力強い歌声で歌う彼女。
どうしたらあんな風に歌えるのか。歌うことへの感情の部分が欠落している律仁にとって、鈴奈が何を思って歌っているのか、どうしてそんなに楽しそうなのか純粋に興味があった。
日が暮れ始めた公園内の噴水広場。
今日は日曜日で何時もの公園で人が集まる日中の時間帯に彼女は演奏をすると連絡を受けたので、寮にいても吉澤に「レッスン受けろ」だの捕まるだけだと思った律仁は鈴奈の元へと足を運んでいた。
レッスンを受けて、怒られながら歌うよりも鈴奈の歌を聴いている方がいいに決まっている。
「はい、今日の……というかここ数日の報酬ね?」
演奏終了後、鈴奈に「時間ある?」と言われた律仁は当然のように彼女の誘いに乗っかった。
噴水前で待ち合わせと言われたので、律仁は先に行って待っていると暫くしてコンビニの袋をぶら提げた彼女が現れては、アイスの袋を開けると二つに分かれたチューブアイスをパッキンと割って差し出してくる。
「半分こってケチくさ……」
数日間のボディガードの報酬なのであればアイス半分とは言わず二個くらいくれてもいいのにとまだまだ夏も中盤である暑さからくる卑しさでそう呟きながら受け取ると彼女にキツく睨まれてしまった。
「うるさいわねー。私だって一人暮らしでお金ないんだから文句言わないの」
「割に合わなっ……」
「要らないなら、返して」
文句ばかり言う律仁に機嫌を損ねさせてしまったのか、貰ったアイスを彼女に奪われそうになり、慌てて頭上にあげる。
「いりますっ。いりますっ。有難く貰います……」
例え半分こだったとしても、何か冷たいものを欲している体には貰えること事態、有難いものだった。噴水を囲う塀に腰を掛けて鈴奈はチューブアイスの蓋を割って吸い始める。
律仁も大人しく鈴奈の隣に座ると貰ったアイスに口をつけた。
外気温の暑さで既にどろどろに溶けてしまっていたけど、冷たい爽やかなホワイトサワー味が口に広がって一瞬だけでも生き返った気分になる。
「ありがとうね。君のおかげで安心して歌えてるし、やっぱ人がひとりいるだけでも集客効果っていうの?私の歌を立ち止まって聴いてくれる人増えた気がする」
「それは俺のおかげじゃないっしょ。鈴奈の歌が魅力的だから」
確かに一番最初に彼女をみたときは、老人と律仁くらいしかいなかったが
日を追うごとに増えている気はする。
今日は休日ということもあるかもしれないが、中にはギターケースの中に投げ銭をしている人もいたので少しずつでも彼女の日々の成果は出ているようだった。
律仁自身は唯座って聴いているだけなので、御礼を言われることはしていない。彼女を知る前に聞いたときから彼女の歌は律仁を感動させていたし、まだ周りが気づいていないだけで鈴奈は才能がある方だと思う。
「なっ……。何⁉そんな褒めてもこれ以上は何も出ないわよ」
率直な意見を素直に述べたまでだったのに、鈴奈は急に顔を背けてくると空になったチューブアイスのゴミを投げつけてきた。
強がって頬を膨らませながら「捨てておいて」と言ってきた彼女は何処か照れ隠しをしているように見えなくもない。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
冬の夕暮れに君のもとへ
まみはらまさゆき
青春
紘孝は偶然出会った同年代の少女に心を奪われ、そして彼女と付き合い始める。
しかし彼女は複雑な家庭環境にあり、ふたりの交際はそれをさらに複雑化させてしまう・・・。
インターネット普及以後・ケータイ普及以前の熊本を舞台に繰り広げられる、ある青春模様。
20年以上前に「774d」名義で楽天ブログで公表した小説を、改稿の上で再掲載します。
性的な場面はわずかしかありませんが、念のためR15としました。
改稿にあたり、具体的な地名は伏せて全国的に通用する舞台にしようと思いましたが、故郷・熊本への愛着と、方言の持つ味わいは捨てがたく、そのままにしました。
また同様に現在(2020年代)に時代を設定しようと思いましたが、熊本地震以後、いろいろと変わってしまった熊本の風景を心のなかでアップデートできず、1990年代後半のままとしました。
【推しが114人もいる俺 最強!!アイドルオーディションプロジェクト】
RYOアズ
青春
ある日アイドル大好きな女の子「花」がアイドル雑誌でオーディションの記事を見つける。
憧れのアイドルになるためアイドルのオーディションを受けることに。
そして一方アイドルというものにまったく無縁だった男がある事をきっかけにオーディション審査中のアイドル達を必死に応援することになる物語。
果たして花はアイドルになることができるのか!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる