君のために僕は歌う

なめめ

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助けた代償

助けた代償④

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翌日もその翌日も律仁はレッスンなんかそっちのけで彼女が歌う公園の広場
で地べたに胡座をかいて右膝に右肘を置き、頬杖をつきながら律仁は目の前の彼女の姿をじっと眺めるのが日課になっていた。最初はあまり乗り気ではなかった彼女のボディガードも彼女の歌っている姿をみるにつれて律仁は彼女に興味を持つようになっていった。

白いギターを肩から下げて、力強い歌声で歌う彼女。
どうしたらあんな風に歌えるのか。歌うことへの感情の部分が欠落している律仁にとって、鈴奈が何を思って歌っているのか、どうしてそんなに楽しそうなのか純粋に興味があった。


日が暮れ始めた公園内の噴水広場。
今日は日曜日で何時もの公園で人が集まる日中の時間帯に彼女は演奏をすると連絡を受けたので、寮にいても吉澤に「レッスン受けろ」だの捕まるだけだと思った律仁は鈴奈の元へと足を運んでいた。

レッスンを受けて、怒られながら歌うよりも鈴奈の歌を聴いている方がいいに決まっている。

「はい、今日の……というかここ数日の報酬ね?」

演奏終了後、鈴奈に「時間ある?」と言われた律仁は当然のように彼女の誘いに乗っかった。

噴水前で待ち合わせと言われたので、律仁は先に行って待っていると暫くしてコンビニの袋をぶら提げた彼女が現れては、アイスの袋を開けると二つに分かれたチューブアイスをパッキンと割って差し出してくる。

「半分こってケチくさ……」

数日間のボディガードの報酬なのであればアイス半分とは言わず二個くらいくれてもいいのにとまだまだ夏も中盤である暑さからくる卑しさでそう呟きながら受け取ると彼女にキツく睨まれてしまった。

「うるさいわねー。私だって一人暮らしでお金ないんだから文句言わないの」
「割に合わなっ……」
「要らないなら、返して」

文句ばかり言う律仁に機嫌を損ねさせてしまったのか、貰ったアイスを彼女に奪われそうになり、慌てて頭上にあげる。

「いりますっ。いりますっ。有難く貰います……」

例え半分こだったとしても、何か冷たいものを欲している体には貰えること事態、有難いものだった。噴水を囲う塀に腰を掛けて鈴奈はチューブアイスの蓋を割って吸い始める。

律仁も大人しく鈴奈の隣に座ると貰ったアイスに口をつけた。
外気温の暑さで既にどろどろに溶けてしまっていたけど、冷たい爽やかなホワイトサワー味が口に広がって一瞬だけでも生き返った気分になる。

「ありがとうね。君のおかげで安心して歌えてるし、やっぱ人がひとりいるだけでも集客効果っていうの?私の歌を立ち止まって聴いてくれる人増えた気がする」

「それは俺のおかげじゃないっしょ。鈴奈の歌が魅力的だから」

確かに一番最初に彼女をみたときは、老人と律仁くらいしかいなかったが
日を追うごとに増えている気はする。
今日は休日ということもあるかもしれないが、中にはギターケースの中に投げ銭をしている人もいたので少しずつでも彼女の日々の成果は出ているようだった。

律仁自身は唯座って聴いているだけなので、御礼を言われることはしていない。彼女を知る前に聞いたときから彼女の歌は律仁を感動させていたし、まだ周りが気づいていないだけで鈴奈は才能がある方だと思う。

「なっ……。何⁉そんな褒めてもこれ以上は何も出ないわよ」

率直な意見を素直に述べたまでだったのに、鈴奈は急に顔を背けてくると空になったチューブアイスのゴミを投げつけてきた。
強がって頬を膨らませながら「捨てておいて」と言ってきた彼女は何処か照れ隠しをしているように見えなくもない。



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