君のために僕は歌う

なめめ

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助けた代償

助けた代償③

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自分より二つ上の年で夢を持って上京してきた彼女を素直に尊敬するが、地方からも外国からも人が集まる分、治安がいいとも言い切れないこの都心で女性がひとりでいたら素行の悪い奴のかっこうの餌食になりかねないのは確かだった。

だから見掛ける女性ミュージシャンの大概は知人男性の付き添いが近くにいる人の方が多いのを耳にしたことがある。

「あんたさ、ひとりで路上ライブするのはいいけど気を付けた方がいいよ。
女性シンガーって大体付き添いとかいるみたいだし、あんた頼れる人いないんだろ?なら、あんまり遅い時間はやめたほうがいい」

助言のつもりでそう声を掛けると、急に右手を掴まれ、泣いていた筈の彼女の顔が持ち上がる。

「じゃあ、君が私の護衛してよ」
「は?」

赤い目をしながら瞳を潤ませて此方を見てくる視線に期待が込められる。
ころころと変わる彼女の情緒に呆気にとられていると、彼女は「あー‼」と大きな声を出してギターのボディを指差し始めた。

「ここ傷ついてるじゃん。君のせいだよね?」
「は?違うし、それは元々あった傷で……」

差された傷を見るとどっからどう見ても使い古しの傷で今回とは何ら関係のない。律仁が反論しようと言い終わらないうちに彼女の人差し指が律仁の口元にあてがわれてしまった。

「言い訳無用。その代償として今後は私の護衛よろしくね?はい、君の携帯出して?」
「なんでそーなるんだよ。護衛くらい自分で頼めよ」
「いいから、拒否したら警察に訴えるから。連絡先出して」

目をかっぴらきながら威圧を掛けてくる。
か弱い女性だと情けを掛けていた自分に後悔しては、こんなの新種の当たり屋じゃないかと内心で思いながらも、彼女の圧に負けてスマホを取り出し連絡先の交換を求めてくるのでしぶしぶ交換した。

ホーム画面の友だちリストに『鈴奈』という名前が表示される。

「すずな……?」
「違う、よく間違えられるけど。れいな、雪城鈴奈ゆきしろれいな

同じクラスの奴に麗しい方のレイを使った奴は見掛けっていたが、鈴をれいと読む奴は初めてみたかもしれない。何となく高飛車な感じのない親しみのありそうな優しい字画に感じた。

性格は今のとこ難はありそうな女ではあるが……。

「君は、律仁りつひとね。苗字は?」
「麻倉……」
「ふーん」

彼女は深く頷くと律仁の顔を覗き込んできた。至近距離にある彼女の顔に思わず身を引かせる。人形のような長いまつ毛に色素が薄いのか茶色い大きな瞳が律仁を捉えている。シャープな顔立ちはそのままの性格を表しているようだった。何だか見定めをされているようで心地が良くないのに、変に心拍数が上がっている気がした。

「なに?」
「ううん、よろしくね。律仁くん」
「ああ、うん」

そんな気持ちを誤魔化すように目の前の鈴奈に問うてみると、彼女は
顔にくしゃりと皺を寄せて笑顔を向けてくる。その瞬間胸が締め付けられる感覚を覚え、太鼓のようにドクドクと五月蠅く鼓動が鳴った。

まさかな……。

あんな母親の影響もあるのか、昔から異性は得意ではなかった。
それなら同性同士でわいわいと騒いで遊んでいる方が楽しかったし、
異性に色恋の感情を持ち始めた友人の気持ちを理解することができなかった。

差し出された右手に自分の右手を重ねる。自分より暖かい彼女の手、未来を見据えた真っすぐな瞳に気づいたら惹かれてしまっていた。





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