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助けた代償
助けた代償①
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廉介のお目当てのものを手に入れた後、早々に駅前で別れた。
チームの練習がなくても帰宅後は家で練習するというのだから、サボり倒している律仁とは大違いなことに差を見せつけられる。
相変わらず携帯のバイブ音は鞄の中で五月蠅く鳴り響いているし、
今寮に帰ったとしても廉介に対する劣等感から余計なことを考えてしまいそうで当てもなく駅周辺を歩いていた。
日が暮れ、帰宅途中のサラリーマンを多く目にし始めた頃。
駅から少し歩いたとこに位置する向かいの道路を挟んだガードレール前で何やらけたたましい声が聞こえてきた。趣味を疑いたくなるような派手な柄のシャツの男二人に囲まれて、腕を掴まれては振り切ろうとする白いギターを持った女。律仁はその彼女に見覚えがあった。
昨日自分に強く当たってきたあの路上の女だ。
彼女が「やめて!」と叫んでいることから友好的ではないことは明らかだった。
差し詰めナンパでもしつこくされているのだろう。
都心では珍しくもない光景。構う必要はない。
なんなら自分はもう二度と会うものかと思っていた女だ。
構ったところでまた何を言われるか分かったもんじゃない。
暫くじっと眺めていると両腕を持ち上げられて、力に負かされどこかに連れて行かれそうになっていた。
流石にまずい予感しかしない……。
男二人に連れて行かれそうになっている姿に、周りの通行人は見て見ぬフリをして通り過ぎていく。中には哀れんだ目で様子を伺っているものもいた。
律仁は慌てて近くの信号で回り込んで、彼女と男達が立っていた位置に到着するが、白いギターとハードケースがあるだけで人の姿はなかった。
男二人に彼女が連れて行かれるとしたら最悪な事態しか予想ができない。
律仁が回り込む間の時間からして左程遠くには行っていない筈……。
律仁はそのギターケースを持ってビルとビルの隙間を隈なく探して走り回る。
路地裏の建物間を道を探していたところで女の悲鳴が聞こえ、声のする方へ駆け寄ると暗い建物と建物の間の隙間に、彼女に馬乗りになっている男と、彼女の両手を抑えて身動きを取れなくしている男の姿があった。
肝心の彼女は男二人に押さえつけられて、涙目になっている。
誰が見てもそれが容認できるものではないと分かる現状に律仁の怒りが心頭する。
こういった事件はニュースでよく目にしているが、日頃から腹立たしいと思っていた。
そんな人の醜さが一番嫌いな律仁は、正義感から身体が動かずにはいられない。
律仁はギターケースを地面に音立てて置くと男たちの注意を惹き付けた。
「おい、何やってんの?」
「あ?」
「それ、俺の連れなんだけど」
律仁の問いによって馬乗りになった男が振り返った瞬間にギターケースを男の頭目がけて振りかざす。
すると男は気を失い、その場に倒れ込んでしまった。
それを見たもう一人の男が女の手を掴むの止めて此方に向かってくるのをケースの先端で思い切り腹部を突いてやると後ろに下がって尻餅をつく。
「てめぇ……」
明らかな殺気を感じながらも、逃げるのであれば男が立ち上がろうとしている今しかない。
ほんの数秒の判断で、律仁はギターケースと地面に座っている彼女の手を掴んで立ち上がらせる。
「逃げるぞ」
「ちょっと……、私のギターで」
「いいから!早く!」
あんなことがあった後にもかかわらず、自身のギターを気にする女に腹が立った律仁は怒鳴るように急かしてやると女が黙り込んだので構わず手を引いて路地を抜けだした。
チームの練習がなくても帰宅後は家で練習するというのだから、サボり倒している律仁とは大違いなことに差を見せつけられる。
相変わらず携帯のバイブ音は鞄の中で五月蠅く鳴り響いているし、
今寮に帰ったとしても廉介に対する劣等感から余計なことを考えてしまいそうで当てもなく駅周辺を歩いていた。
日が暮れ、帰宅途中のサラリーマンを多く目にし始めた頃。
駅から少し歩いたとこに位置する向かいの道路を挟んだガードレール前で何やらけたたましい声が聞こえてきた。趣味を疑いたくなるような派手な柄のシャツの男二人に囲まれて、腕を掴まれては振り切ろうとする白いギターを持った女。律仁はその彼女に見覚えがあった。
昨日自分に強く当たってきたあの路上の女だ。
彼女が「やめて!」と叫んでいることから友好的ではないことは明らかだった。
差し詰めナンパでもしつこくされているのだろう。
都心では珍しくもない光景。構う必要はない。
なんなら自分はもう二度と会うものかと思っていた女だ。
構ったところでまた何を言われるか分かったもんじゃない。
暫くじっと眺めていると両腕を持ち上げられて、力に負かされどこかに連れて行かれそうになっていた。
流石にまずい予感しかしない……。
男二人に連れて行かれそうになっている姿に、周りの通行人は見て見ぬフリをして通り過ぎていく。中には哀れんだ目で様子を伺っているものもいた。
律仁は慌てて近くの信号で回り込んで、彼女と男達が立っていた位置に到着するが、白いギターとハードケースがあるだけで人の姿はなかった。
男二人に彼女が連れて行かれるとしたら最悪な事態しか予想ができない。
律仁が回り込む間の時間からして左程遠くには行っていない筈……。
律仁はそのギターケースを持ってビルとビルの隙間を隈なく探して走り回る。
路地裏の建物間を道を探していたところで女の悲鳴が聞こえ、声のする方へ駆け寄ると暗い建物と建物の間の隙間に、彼女に馬乗りになっている男と、彼女の両手を抑えて身動きを取れなくしている男の姿があった。
肝心の彼女は男二人に押さえつけられて、涙目になっている。
誰が見てもそれが容認できるものではないと分かる現状に律仁の怒りが心頭する。
こういった事件はニュースでよく目にしているが、日頃から腹立たしいと思っていた。
そんな人の醜さが一番嫌いな律仁は、正義感から身体が動かずにはいられない。
律仁はギターケースを地面に音立てて置くと男たちの注意を惹き付けた。
「おい、何やってんの?」
「あ?」
「それ、俺の連れなんだけど」
律仁の問いによって馬乗りになった男が振り返った瞬間にギターケースを男の頭目がけて振りかざす。
すると男は気を失い、その場に倒れ込んでしまった。
それを見たもう一人の男が女の手を掴むの止めて此方に向かってくるのをケースの先端で思い切り腹部を突いてやると後ろに下がって尻餅をつく。
「てめぇ……」
明らかな殺気を感じながらも、逃げるのであれば男が立ち上がろうとしている今しかない。
ほんの数秒の判断で、律仁はギターケースと地面に座っている彼女の手を掴んで立ち上がらせる。
「逃げるぞ」
「ちょっと……、私のギターで」
「いいから!早く!」
あんなことがあった後にもかかわらず、自身のギターを気にする女に腹が立った律仁は怒鳴るように急かしてやると女が黙り込んだので構わず手を引いて路地を抜けだした。
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