君のために僕は歌う

なめめ

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路上の天使

路上の天使⑩

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上手く車を巻くことが出来たのを確認して
律仁は大型のCDショップのある場所を目指して足を進めた。背後から廉介がついてくる足音がする。

「律仁、本当に大丈夫だったのか?」

「いーのいーの。それにしてもれんちょん流石だな。全然バテてないじゃん」

律仁とて体育の授業はオール五だし、運動神経はいい方ではあるが一連の出来事で少しだけ息が上がっていた。そんな律仁を他所に廉介は平然としているので、体力お化けにも程がある。

「当たり前だろ。こんなんでバテてたら全国大会いけねえって」

廉介は将来プロを目指しているのか、毎日の練習プラスランニングも欠かさないと聞いているのでそんな自分が敵う相手ではないと分かっていても、負けず嫌いのせいか少しだけ闘志が燃えてくる。

「そうだけど、なんか悔しいわー。明日から俺も走ろうかなー」

コンビニや飲食店が立ち並ぶ道を抜けてスクランブル交差点へと出ると大きな商業ビルのビションに廉介の好きなロックバンドのWOODRAINMPSウッドレインプスのプロモーションビデオが流れていた。

「ウッドだ、やっぱかっけぇ!」と興奮する廉介を横に律仁は一度聞いたら忘れないような、耳心地のいいその曲を信号待ちの間、無意識に口ずさんで鼻歌で歌う。律仁は物事を覚えるのは得意な方で、歌であれば一度聞けば粗方歌える。廉介は手元に残る音源に拘るほどウッドのコアなファンであるが、律仁はそこまで熱狂的なファンといわけではないのでウッドの新曲はサブスクで既に入手済みだった。

「お前ってやっぱりボイトレしてるだけあって鼻歌も上手いよな。将来は歌手志望なんだろ?やっぱり高校は芸能活動出来るとこなんだろ?」

信号が青に変わると同時に廉介に問われる。
「そうだよ」と肯定できるくらい意志があるのならこんなに悩んで、吉澤から逃げることはしていない。中学も節目の年となり受験まで半年を切った。
教室内でうんざりするほど耳にする進路の話。
勿論律仁も進学一択であるものの、学校の選択は自分の将来を左右する
最も重要なイベントだ。事務所としては数々の先輩たちも通っている都内の芸能人御用達の高校に入学させたがっているが、自分が本当にそれでいいのかも律仁の中では固まっていない。

「んー。どうだろうな。ただの事務所の方針でやってるだけし、それよりれんちょんはプロ目指すんだろ?高校も千葉一択なんだもんなー」

「当たり前だろ。小さい頃からプロサッカー選手が夢だったんだよ。
俺は絶対、それを曲げるつもりはない」

自分の将来に期待して、キラキラとしてる廉介の瞳は眩しく律仁の心の靄をより深くさせる。自分は一体どうしたいのだろう。信号を渡り切った先の黄色い「No,music No,Life」の看板が目を惹く建物を眺める。
今となっては律仁から切っても切れない音楽の存在。好きだけど楽しさを見い出せない歌。歌を好きになれたのなら、将来を見出すことが出来たのならこの靄を晴らすことができるのだろうか……。


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