10 / 92
路上の天使
路上の天使⑩
しおりを挟む
上手く車を巻くことが出来たのを確認して
律仁は大型のCDショップのある場所を目指して足を進めた。背後から廉介がついてくる足音がする。
「律仁、本当に大丈夫だったのか?」
「いーのいーの。それにしてもれんちょん流石だな。全然バテてないじゃん」
律仁とて体育の授業はオール五だし、運動神経はいい方ではあるが一連の出来事で少しだけ息が上がっていた。そんな律仁を他所に廉介は平然としているので、体力お化けにも程がある。
「当たり前だろ。こんなんでバテてたら全国大会いけねえって」
廉介は将来プロを目指しているのか、毎日の練習プラスランニングも欠かさないと聞いているのでそんな自分が敵う相手ではないと分かっていても、負けず嫌いのせいか少しだけ闘志が燃えてくる。
「そうだけど、なんか悔しいわー。明日から俺も走ろうかなー」
コンビニや飲食店が立ち並ぶ道を抜けてスクランブル交差点へと出ると大きな商業ビルのビションに廉介の好きなロックバンドのWOODRAINMPSのプロモーションビデオが流れていた。
「ウッドだ、やっぱかっけぇ!」と興奮する廉介を横に律仁は一度聞いたら忘れないような、耳心地のいいその曲を信号待ちの間、無意識に口ずさんで鼻歌で歌う。律仁は物事を覚えるのは得意な方で、歌であれば一度聞けば粗方歌える。廉介は手元に残る音源に拘るほどウッドのコアなファンであるが、律仁はそこまで熱狂的なファンといわけではないのでウッドの新曲はサブスクで既に入手済みだった。
「お前ってやっぱりボイトレしてるだけあって鼻歌も上手いよな。将来は歌手志望なんだろ?やっぱり高校は芸能活動出来るとこなんだろ?」
信号が青に変わると同時に廉介に問われる。
「そうだよ」と肯定できるくらい意志があるのならこんなに悩んで、吉澤から逃げることはしていない。中学も節目の年となり受験まで半年を切った。
教室内でうんざりするほど耳にする進路の話。
勿論律仁も進学一択であるものの、学校の選択は自分の将来を左右する
最も重要なイベントだ。事務所としては数々の先輩たちも通っている都内の芸能人御用達の高校に入学させたがっているが、自分が本当にそれでいいのかも律仁の中では固まっていない。
「んー。どうだろうな。ただの事務所の方針でやってるだけし、それよりれんちょんはプロ目指すんだろ?高校も千葉一択なんだもんなー」
「当たり前だろ。小さい頃からプロサッカー選手が夢だったんだよ。
俺は絶対、それを曲げるつもりはない」
自分の将来に期待して、キラキラとしてる廉介の瞳は眩しく律仁の心の靄をより深くさせる。自分は一体どうしたいのだろう。信号を渡り切った先の黄色い「No,music No,Life」の看板が目を惹く建物を眺める。
今となっては律仁から切っても切れない音楽の存在。好きだけど楽しさを見い出せない歌。歌を好きになれたのなら、将来を見出すことが出来たのならこの靄を晴らすことができるのだろうか……。
律仁は大型のCDショップのある場所を目指して足を進めた。背後から廉介がついてくる足音がする。
「律仁、本当に大丈夫だったのか?」
「いーのいーの。それにしてもれんちょん流石だな。全然バテてないじゃん」
律仁とて体育の授業はオール五だし、運動神経はいい方ではあるが一連の出来事で少しだけ息が上がっていた。そんな律仁を他所に廉介は平然としているので、体力お化けにも程がある。
「当たり前だろ。こんなんでバテてたら全国大会いけねえって」
廉介は将来プロを目指しているのか、毎日の練習プラスランニングも欠かさないと聞いているのでそんな自分が敵う相手ではないと分かっていても、負けず嫌いのせいか少しだけ闘志が燃えてくる。
「そうだけど、なんか悔しいわー。明日から俺も走ろうかなー」
コンビニや飲食店が立ち並ぶ道を抜けてスクランブル交差点へと出ると大きな商業ビルのビションに廉介の好きなロックバンドのWOODRAINMPSのプロモーションビデオが流れていた。
「ウッドだ、やっぱかっけぇ!」と興奮する廉介を横に律仁は一度聞いたら忘れないような、耳心地のいいその曲を信号待ちの間、無意識に口ずさんで鼻歌で歌う。律仁は物事を覚えるのは得意な方で、歌であれば一度聞けば粗方歌える。廉介は手元に残る音源に拘るほどウッドのコアなファンであるが、律仁はそこまで熱狂的なファンといわけではないのでウッドの新曲はサブスクで既に入手済みだった。
「お前ってやっぱりボイトレしてるだけあって鼻歌も上手いよな。将来は歌手志望なんだろ?やっぱり高校は芸能活動出来るとこなんだろ?」
信号が青に変わると同時に廉介に問われる。
「そうだよ」と肯定できるくらい意志があるのならこんなに悩んで、吉澤から逃げることはしていない。中学も節目の年となり受験まで半年を切った。
教室内でうんざりするほど耳にする進路の話。
勿論律仁も進学一択であるものの、学校の選択は自分の将来を左右する
最も重要なイベントだ。事務所としては数々の先輩たちも通っている都内の芸能人御用達の高校に入学させたがっているが、自分が本当にそれでいいのかも律仁の中では固まっていない。
「んー。どうだろうな。ただの事務所の方針でやってるだけし、それよりれんちょんはプロ目指すんだろ?高校も千葉一択なんだもんなー」
「当たり前だろ。小さい頃からプロサッカー選手が夢だったんだよ。
俺は絶対、それを曲げるつもりはない」
自分の将来に期待して、キラキラとしてる廉介の瞳は眩しく律仁の心の靄をより深くさせる。自分は一体どうしたいのだろう。信号を渡り切った先の黄色い「No,music No,Life」の看板が目を惹く建物を眺める。
今となっては律仁から切っても切れない音楽の存在。好きだけど楽しさを見い出せない歌。歌を好きになれたのなら、将来を見出すことが出来たのならこの靄を晴らすことができるのだろうか……。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ほつれ家族
陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
イルカノスミカ
よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。
弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。
敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる