俺以外美少女の戦隊ヒーローに入隊したけどヒロインもれなくヤンデレンジャー

寄紡チタン

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博愛主義!ヤンデレンジャー!!

未来予知(1)

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「まずは、鶯からにしようか」
 
 常盤鶯さん。彼女は俺より少し年上でおっとりした性格の癒し系に見える。リストカットの件もあり、ちょっと撃たれ弱い面はあるのかもしれないとは思うけれど、攻撃的だったりわがままだったりヤンデレっぽいと感じる部分は殆どない。結婚したら案外普通にいい奥さんになるんじゃないかな。家庭的そうだし。


---
「・・・・・・」
 プロジェクターに映像が映る。俺が自宅らしき場所に帰ってきたところから始まったようだ。なるほど、再現ドラマみたいに第三者視点で見ることが出来るのか。
「おかえりなさい、あなた」
 俺が玄関の扉を開けるとパタパタと軽快な足音が寄ってきて、長い髪をポニーテールにしたエプロン姿の鶯さんが現れる。地味な紺色のワンピースに白くて控えめなフリルの付いたエプロンが清楚で可愛らしくいかにも新婚さんといった感じだ。鶯さんの見た目は今とそんなに変わらないから、そう遠い未来の映像じゃなさそうに見える。
「あなた、今日もお仕事お疲れ様」
 鶯さんは専業主婦なのかな、それにしてもあなたっていい響きだな。鶯さんはニコニコ笑顔で俺の手から鞄を受け取るが、スーツ姿の俺は太々しいことに「ただいま」の一言も言わない。
「ねぇあなた、怒らないで聞いて欲しいの。今日も石竹さんたちが来たの・・・私怖い。あの子達、まだあなたの事が忘れられないみたい」
 桃達が俺を忘れられない?一体どういう未来なんだ?
「何度も言っているのに、空さんが愛しているのは私だけだって、私たちはもう夫婦なんだから気軽に来るのはやめてって、空さんも付きまとわれて迷惑しているって・・・なのに、あの子達何度も何度も家に来て嫌がらせばかりしてくるの」

「・・・・・・やめてくれ」
 ここで初めて俺が口を開いた。

 映像越しに聞く自分の声は少し違和感があり、そして自分とは思えないほどに怒気を帯びた冷酷な口調。鶯さんは青ざめた顔で俺の方を見るが、俺は鶯さんの方を向こうとしない。不穏な空気だ。

「いい加減辞めてくれ!もうお前の話を聞くのはうんざりなんだよ」
 追い打ちをかける言葉に鶯さんは今にも泣きだしそうだ。
「な、なんでそんな事を言うの?私は何も悪い事していないのに、あなたの為を想って・・・こうやって今日も我慢していたのに」
「もう俺は、お前の事が信じられない」
 どうしたんだ俺、そんな酷いこと・・・。
「そうやって被害者面すれば俺が優しくすると思っているんだろ?もうやめてくれ、限界なんだよ、お前の被害妄想に付き合うのは」
「そんな、被害妄想だなんて・・・本当に傷ついているの、ほら、見て?」

 鶯さんは背中に手を回してエプロンのリボンを解く。パサリ、と白い布がフローリングの上に墜ちた。さらに紺色のワンピースのフロントボタンを外しはじめる。

「・・・ほら、こっちを見て、あなた」

 紺色のワンピースをウエストまではだけさせて下着が露になった鶯さんの身体は、全身傷だらけだった。腕だけじゃない、胸回りにはひっかき傷の跡、手首には細い針のような跡、腹部にはたくさんの痣、青白い肌にはあばらが浮かび上がり決して健康的な食生活をおくっていないことがわかる。知り合いの下着姿を見てしまった罪悪感や興奮よりも先に、彼女の痛々しい姿への恐怖を感じる。

「ここの傷、今日付けたの・・・」
 鶯さんは当然と言った様子で腹部にあるまだ新しい切り傷を見せつける。その様子は痛みを堪えるものではなく、恍惚と、まるで愛の印だと言わんばかりに頬を高揚させてまだ傷口が固まり切らない部分をゆっくりと撫でまわす。

「ほら、ここと・・・ここも」

 画面にうつった手首は、一瞬湿疹かと思う程に滲んだ色の傷で、同じ向きの線に塗りつぶされていた。青黒いあざの上に塗りつぶすように付けられた赤白く膨れたリストカットの跡。これだけの量だ、何度か死にかけていてもおかしくない。

 俺と、画面の向こうの俺はその傷だらけの身体に同じように嫌悪感を示し、鶯さんの身体から眼を反らす。しかしお構いなしに鶯さんはワンピースを全て脱ぎ、目の前にいる俺の方へ近寄る。

「見て、見てよ・・・私こんなに酷い目にあっているの。苦しいの、辛いの、私にはあなたしかいないの!だから愛してるって言ってよ!私あなたに愛してもらえないと生きていけない!お願い、あなたのこと世界で一番愛してるの、あなたさえいれば私はどんなことにも耐えられるの、だからあなたも私の事を愛してるって言って!昔みたいに私の事が一番だよって教えて!」

 彼女は自分の権利を主張するみたいに傷を見せつけているが、画面の中の俺はそれに対してもうんざりとした様子で、鶯さんを抱きしめることも愛してると返事をしてやることも無い。

「もう無理だ」
 代わりに与えられたのは拒絶だった。

「えっ」
「もうお前と一緒にいるのは無理だよ、鶯」
 きっぱりと気持ちを口にする俺は怒りや憎しみではなく、何か大切なものを救えなかった悲しみと罪悪感に苦しんでいるような表情をしている。
「そんな・・・」

「思えば最初からおかしかったんだ。お前だけが理由もなくいじめられているとか、博士からも差別的扱いを受けて辛い現場にばかり出動させられているとか。大体表に現れる巨大な力を持つシャドウなんて見たこと無いし、他の隊員もそんなもの知らなかった!お前の言う悲劇は何一つとして証拠がないんだよ!」

 どきり、と俺の心臓が収縮する。もしかして、鶯さんの言葉は全て・・・。

「違うの、それは私を嫌う博士達が協力して嘘をついていたの・・・本当なの、私はあなたを愛してる。信じて、私だけを信じてよ」

 泣き縋る鶯さんを払いのけ、俺はわざとらしくため息をついた。
「はぁ・・・。勝手に俺と夫婦だと言い張っていた時、もっと真面目に注意するべきだったな。そんな異常な女に同情して、俺が守ってやらないとなんて考えたのが間違いだった」

「ち、ちが・・・っ」
 鶯さんの嗚咽が混じった反論は俺の言葉にかき消される。

「最初からお前は被害妄想まみれの嘘吐きだったわけだ。俺を騙していたんだろ?俺の事愛してるとか言っておきながら、一番俺を苦しめていたのはいつもお前だった。よく聞け、お前と結婚したのはただの同情、悲劇のヒロインぶってるお前の妄言にまんまと騙されて、同情しただけだ。好きでもないのに結婚するんじゃなかった!」

「違う・・・違うの、空さん、おねがい」
「何が違うんだ。もう俺は付き合いきれない。お前のせいで碌に遊びに行けないし自由な時間もない、毎日毎日お前の機嫌ばかり気にして全然休めない、どれだけ俺の人生を狂わせたら気が済むんだ」

 本当に心の底から疲弊し限界を迎えている自分の姿に俺本人ですら辛くなってくる。そんな俺を見て鶯さんは下着姿のまま台所に向かった。

「空さんはもう、私の事を愛してはいないのね」
「もう、じゃない。最初から俺達の間に愛なんてなかった。本当に愛しているなら何故相手の事を尊重できない?困らせる?束縛する?お前だって俺を愛していなかった」
 台所の棚から取り出したのはどこの家庭にでもある、包丁だった。鶯さんは両手でしっかりと包丁を持ち、自分の胸に突きつける。
「・・・わかったわ、そこまで言うなら、死ぬから。私が死ねばあなたは幸せなんでしょう」
「勝手にしろよ、何度もそうやって自分の命を盾にして俺を縛り付けて・・・言っただろ、もううんざりなんだ。勝手に死んでくれ」
 そう言って俺は家を出て行った。

 残った広いリビングで鶯さんは包丁の刃を自分に向けたまま硬直している。





「・・・・・・だいじょうぶ、だいじょうぶよ。きっと直ぐに心配して帰ってきてくれるから、今までだってそうだったじゃない、空さんなら私の愛をわかってくれるわ、私が一番空さんの事を愛しているって思い出してくれる、今日は偶然ちょっとだけ機嫌が悪かっただけだもの、本当の空さんはあんなこと言わない、あれは本心じゃない、疲れていたのよ、それなのに愛する奥さんにあたるなんて良くないけど私は全部許すわ、だって愛する空さんのしたことですから、一度や二度の過ちを許せない程心の狭い女じゃないわ、あの言葉が空さんの言いたかったことじゃない事くらいお見通しだもの、あんなの空さんらしくない、もしかしたら誰かに言わされたのかも、蘇芳さんとか、石竹さんとか、全員かもしれない、あの人たち本当にしつこく何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も私の空さんに言い寄って、そうだわ、わかった、きっとそれで空さんはあんな思ってもいないことを言ったのね、あえて私と離れることで私がみなさんに嫌われないように、矛先が私の方に向かないように守ってくれるつもりだったんだわ、そうよ、そうに違いない、あぁ、なんて優しくて不器用な人なのかしら、でもそんなことをしたら私が悲しんでしまうじゃない、それに私と離れるだなんて空さんだって辛い筈、それでも私の為にああして悪役を演じてくれたのね、私を傷つけないように、きっとそうだわ、あれは全部演技だったのね、そうに違いない、だって空さんはあんなことしないもの、空さんは私の素敵な王子様だもの」

うわごとのようにブツブツと呟く鶯さんの画を最後に映像はプツンと途切れた。
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