俺以外美少女の戦隊ヒーローに入隊したけどヒロインもれなくヤンデレンジャー

寄紡チタン

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博愛主義!ヤンデレンジャー!!

常盤鶯という女性(2)

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「・・・今日も、いらっしゃいませんね」
 どうしてでしょう、運命のあなたとの幸せな日々はまだ始まらない。
 私と空さんが出会い、私たちが家族になってもうすぐで一週間。全く使われていない『ブルー』と書かれた部屋の中で私はその日も帰らぬ旦那を待っていました。
「空さん、どうして・・・」
 空さんがご実家で暮らしているのは知っていました。入隊して直ぐは書類手続きがあるし引っ越しの準備だってある筈。でも、もう六日もたつのに一向にこのお部屋に帰って来る気配がない。早く籍も入れたいのに、
「仮にも新婚なのに、せめて顔だけでも見せてくれれば・・・」
 残念なことに空さんの連絡先もご実家の住所も知らない私はひたすらにあなたを信じて待つことしかできない。何故でしょう、胸騒ぎがする。
「だめ、だめよ、鶯。空さんを信じないと」
 私は自分に言い聞かせる。空さんは素敵な私の旦那様、それを疑うなんて許されない。きっと何か事情があってこの家に帰ってこれないの。フィランスブルー専用部屋、つまり空さんの新居に妻である私が引っ越してきて一緒に暮らす。これはいたって自然なことなんだから。近所にフィランスイエローが住んでいるのも我慢するわ、今までだって頑張れたの。だから、はやく帰ってきて欲しい。


「家に引きこもっていてはだめね、ちょっと外の空気を吸いましょう」
 特注品のダクトにより外の空気はたっぷり入って来るとはいえ所詮は地下室、日当たりはどうしても悪くなるからたまには外に出ないと身体に悪い。そう思って私は紫雲堂に上がっていった。

 その時だった、私の目に恐ろしい光景が映ったのです。

「あーあ、もうついちゃいましたね、空先輩ともっと二人っきりでお話ししていたかったなぁ」
「いや、俺に合わせて電車で来たから桃にとっては普段よりかなりゆっくりだったでしょ?」
「えー?桃出動命令ないときはスーツ着ないし電車乗るよ?」
「あ、そうなの?」
「もーっ!先輩は桃が自分の都合でヒーローの力を使うと思ってるの?」
「ご、ごめん」
 紫雲堂に入ってきたのは私の旦那である浅葱空さん。そして、親し気にその腕にしがみつく石竹桃さんだった。その様子は非常に親し気で、石竹さんはやけに露出の多い、太ももと肩の出たいかがわしい服装をして誘うような目つきで空さんを見つめている。
 二人は見せつけるように平然と店内に入り、私のいるスタッフルームに向かってゆっくりと進む。
「・・・そんなっ!」
 ショックのあまり声を上げる私。
「えっ?鶯さん?」
 思わず涙が零れ、二人に詰め寄る事も怒ることも出来ず、とにかくここから逃げ出してしまいという気持ちにかられ、慌てて基地に戻った。
「まさか、そんな・・・」
 空さんが浮気をしていたなんて。酷い。
 私は『ブルー』と書かれた部屋の隅でひたすらに泣きました。どうして神様は私にばかりこんなに不幸を与えるのか、せっかく手に入れた幸せをこんなにあっさり奪うなら最初から与えなければいいのに。
「酷い、酷いわ・・・」
 本気で愛していたのに、昨日は貴女への愛でヒーローになったのに。いつもの十倍は力が発揮できて、これで他の隊員に馬鹿にされないって、思っていたのに!


「あの、鶯さん?」
 暫くして、部屋の外から空さんの声が聞こえてくる。
「博士に聞いたらこの部屋にいるんじゃないかって、えっと、ここ、俺の部屋ですよね?使うつもりはないから別に構わないんですけど・・・」
 俺の部屋?使うつもりはない?ここは私達夫婦の新居なのに、まるで他人事。やっぱり私との結婚は気の迷いだと言いたいのね。
「えっと、さっき泣いてましたよね?大丈夫ですか?」
「・・・」
 あぁ、他の女に心が移ろいでいても私の事を心配してくれる、そんなあなたが好き。あなたはどうしようもない人だけど、私は簡単に嫌いになんてなれないみたい。どうしてそんな風に私の心を惑わそうとするのですか空さん。
「入りますよ?」
 本物のカギを持っている空さんは扉を開け、真っ暗な部屋でふさぎ込む私の元へそっと近づく。
「鶯さん、大丈夫ですか?」
「・・・っ」
 優しい声、その声に包まれて安心したい。全て身を委ねてしまいたい。
「その、私っ」
 顔を上げると、驚いた表情のあなたがいた。あなたは直ぐに優しく微笑んで、私の髪をそっと撫でてくれる。
「・・・」
 そして、直ぐになにかに気付いて手を止める。
「鶯さん!その傷は・・・」
 私の左手首から関節にかけて入った何本もの傷、それに気づいたあなたは私の顔を見て真剣な表情で問いただす。
「これ、もしかしてリストカットですか?」
「・・・」
「違ったらごめんなさい。でも、この量はとても見逃せない・・・」
 あぁ、あなたはやっぱり優しいのですね。私の事を本気で心配してくれている、良かった、まだ私は完全に見捨てられたわけじゃないんだ。
 先程のは気の迷いでしょうか、それとも優しい貴方のことですからあの女につけこまれてしまったのでしょうか。
「心配かけてごめんなさい。でも空さんがここに来てくれたから・・・少しだけ大丈夫です」
「そんな強がり言わないでください、これ、自分でやったんですか?なんで・・・」
 私だけを見る真摯なその瞳、あなたの頭の中は今蘇芳さんでも石竹さんでもなく、私の事だけを考えている。私の手を握り、震える私の肩を抱き、私の傷ひとつひとつを苦しそうに見つめては思い詰めた表情を見せる。
 大好きな人に心配してもらえるって、こんなに幸せなことだったんですね。
 私は初めて知った誰かから貰う愛情という快楽に蕩け、空さんの言葉には何も答えずにそっと身を寄せました。
 この時間を永遠のモノにするためには、もう二度と他の女に脅かされないようにするにはどうすればよいのか、そればかり考えています。

 そうだ、私がもっと傷ついたらあなたは私を見てくれますか?

 私は空さんの全てを受け入れるので、私をあなたの帰る場所にしてください。
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